株式会社カギノワ 代表取締役 吉川 真希 氏
 × 弁護士法人内田・鮫島法律事務所 弁護士 鮫島 正洋 氏

海藻で地球温暖化対策に貢献

吉川:私たちは鹿児島・指宿を拠点に、海藻「カギケノリ」を活用して畜産由来のメタン排出を削減する事業を展開しています。牛のゲップに含まれるメタンは温室効果がCO₂の約27倍と強く、畜産由来の排出は全世界の温室効果ガスの約6%を占め、「もし牛が国なら世界第3位の排出国」と言われるほどです。

鮫島:その解決策がカギケノリということですね。

吉川:はい。この海藻を飼料にわずか0.2%添加するだけで、メタン排出を80%以上削減できる可能性があります。大きな設備投資も不要で、既存の畜産の仕組みを変えずに導入できるのが特徴です。

地域とともに立ち上がるプロジェクト

鮫島:吉川さんのバックグラウンドと起業経緯を教えてください。

吉川:もともと生物や医学、海洋生物学に強い関心があり、オーストラリアのマードック大学で分子生物学と生物医科学を学びました。バイオ分野の事業に携わる中で藻類資源の活用可能性を検討する過程でカギケノリに着目しました。2023年には鹿児島県指宿市の山川町漁協とともに実証プロジェクトを立ち上げ、漁業者の方々と連携しながら実際の海で養殖・検証を進めてきました。こうした現場での実証を通じて事業化の確度が高まり、プロジェクトをスピンアウトする形で起業しました。

鮫島:山川町漁協が参画した背景は何でしょうか。

吉川:漁業には資源変動や収益の不安定さという構造的な課題があります。その中で、新しい収益源の創出は重要なテーマです。カギケノリは既存の漁業インフラを活用して養殖できるうえ、環境価値を伴う新しい産品でもあります。単なる副収入ではなく、持続的な収益事業になり得る点に共感いただき、参画いただきました。
 

知財は「構造」で守る

鮫島:カギケノリ自体は自然物であり、単一特許で守れる領域ではありません。

吉川:そのため私たちは、素材そのものではなく、事業全体の構造で競争優位を築く戦略を取っています。具体的には、養殖方法、加工プロセス、有効成分の安定化、飼料としての配合設計、さらにはメタン削減量の測定・検証(MRV)やカーボンクレジット化まで含めた一連のプロセスです。

鮫島:個別に見ると特許化可能な領域とノウハウに分かれますが、重要なのはそれらを統合した「供給と価値化のシステム」です。この全体設計は容易に模倣できるものではなく、結果として強い参入障壁になります。

吉川:はい。将来的には各工程で知財の積み上げを進めていく方針です。例えば、特定環境下での安定養殖技術や、有効成分の保持・加工技術、さらには削減量の信頼性を担保するデータ管理や算定手法などは、特許およびノウハウの両面で重要な資産になると考えています。
 また、カーボンクレジットに関わる測定・報告・検証の仕組みやデータ蓄積も、制度と結びついた知財として位置づけており、単なる技術特許にとどまらない形で競争優位を構築していきます。

鮫島:いわゆる「複合知財」ですね。

吉川:単一の特許で守るのではなく、技術、運用、データ、制度設計を組み合わせた形で競争優位を構築しています。

社会実装に向けた課題と展望

鮫島:今後の課題は何でしょうか。

吉川:飼料添加物としての正式登録まで時間がかかる点と、供給量の拡大です。そのため現在は海面・陸上の両方で養殖を進めています。

鮫島:技術だけでなく制度との戦いでもありますね。

吉川:はい。ただ、登録が完了すれば一気に市場が開くと考えています。

海外展開と供給基盤の優位性

鮫島:海外展開の可能性はありますか。

吉川:海外でも海藻を活用した取り組みはありますが、多くは生産の再現性やスケールに課題があります。その点、日本は南北に長い海域を持ち、地域ごとに異なる環境と漁業ネットワークが存在しています。この分散型の生産基盤を活用することで、単一地域に依存しない安定供給とスケール拡大の両立が可能になります。
 さらに私たちは、養殖から飼料利用、環境価値の評価までを統合したモデルを構築しています。単なる素材供給ではなく、「供給と価値創出の仕組み」そのものを展開できる点が、海外に対する本質的な優位性だと考えています。

鹿児島から始まる「循環モデル」

吉川:私たちは「海と牛の未来をつなぐ」会社です。環境問題を解決しながら、地域産業も豊かにする。その両立を鹿児島から実現し、日本全国、そして世界に広げていきたいと考えています。
 日本沿岸で養殖可能な海藻資源を基盤に、漁協および漁業者と連携した漁業権ベースの供給体制を構築しています。海で養殖したカギケノリを加工し、畜産農家に供給することでメタン排出を削減し、その削減量は環境価値として評価されていきます。
 この仕組みによって、漁業には新たな収益機会が生まれ、畜産側も排出削減と経済価値を同時に得ることができます。単なる素材供給ではなく、供給体制そのものを構築している点に競争優位があります。

鮫島:シンプルでありながらスケールの大きい挑戦ですね。今後が非常に楽しみです。

 

―「THE INDEPENDENTS」2026年5月号 P.14より

※冊子掲載時点での情報です
 
 

 
株式会社オーガンテック 取締役CTO 小川 美帆 氏   <話し手>
株式会社カギノワ 代表取締役 吉川 真希 氏
(→ イベント登壇情報
 
生年月日:1977年9月9日
出身高校:大阪府立守口北高等学校
2025年鹿児島県ビジネスコンテスト優秀賞
企業賞(鹿児島銀行、九州電力、新日本科学、St art upGoGo)受賞

弁護士法人内田・鮫島法律事務所 代表弁護士 鮫島 正洋 氏    <聞き手>
弁護士法人内田・鮫島法律事務所 弁護士 鮫島 正洋 氏
1963年1月8日生。神奈川県立横浜翠嵐高校卒業。
1985年3月東京工業大学金属工学科卒業。
1985年4月藤倉電線(株)(現・フジクラ)入社〜電線材料の開発等に従事。
1991年11月弁理士試験合格。1992年3月日本アイ・ビー・エム(株)〜知的財産マネジメントに従事。
1996年11月司法試験合格。1999年4月弁護士登録(51期)。
2004年7月内田・鮫島法律事務所開設〜現在に至る。