株式会社馬渕工業所 代表取締役 小野 寿光 氏
× 弁護士法人内田・鮫島法律事務所 弁護士 鮫島 正洋 氏
産学官連携を契機に熱エネルギーを活用した発電機を開発
鮫島:まずは、貴社が開発された「ORC装置(バイナリー発電機ともいう)」の概要について教えてください。
小野:「ORC発電装置」は、工場や温泉から排出される100度未満の未利用熱を電力や冷却能力に変えるシステムです。この製品は、2011年の東日本大震災をきっかけに生まれた、産学官連携組織「JASFA」の知恵を結集して完成させたものです。
鮫島:大震災がきっかけとは、どのような経緯だったのでしょうか?
小野:震災後に復旧・復興を進める中で、ただ元の町に戻すのではなく、いずれ再生可能エネルギーを活用した循環型の社会を築きたいと思うようになりました。そんな思いから、同じ志を持つ企業家や大学・高専などの研究者、技術者など、総勢70人社ほどの専門家が集まって「(一社)JASFA」を設立。お互いのリソースやノウハウを補完し合うオープンプラットフォームとして運営しています。
高効率と独自制御に秘められた技術的優位性
鮫島:御社の製品は、技術的にどのような点が画期的なのでしょうか?
小野:まずは効率です。国内の競合メーカーが5kW発電するために125kWの熱量を必要としたのに対し、私たちの装置は75kWで同じ発電量を得られます。また、熱エネルギーを動力に変換する「廃熱エンジン」の発明により冷却に利用できる機能も大きな特徴です。電気に変換するプロセスを省くため、変換効率が27%も向上します。
鮫島:特許取得の経緯はどのようなものでしたか。
小野:当初の出願は拒絶されましたが、諦めずに審判請求を行いました。その過程で、蓄電池を内蔵し、熱の揺らぎや機械的な変動を電流制御で安定させる技術が評価され、最終的には「ORC発電装置」として非常に幅広い特許を審決により得ることができました。
鮫島:競合が撤退した理由である電力制御の問題に対し、「熱の揺らぎを吸収する制御技術」という差別化要素を主張して、広範な権利を取得できたのは素晴らしいと思います。
公知と秘匿を組み合わせた多角的な知財戦略
小野:先ほどの特許以外に膨張機内部のスクロールを「非対称型」にすることで、振動を抑えつつ効率を大幅に向上させる独自の技術があります。これは共同研究先の大学のアイデアをもとに開発しましたが、特許には出せないため、企業秘密として厳重に管理しています。
鮫島:それは非常に重要な戦略ですね。特許や意匠を取得する部分と秘匿する部分を組み合わせることで、競合が容易に模倣できない参入障壁を築いているわけです。知財を多角的に保護することで、御社ならではの優位性を確固たるものにしています。
第二創業を迎え、事業拡大とIPOを目指す
鮫島:設立から60年を超える貴社において、まさに第二創業を迎えていると感じます。最後に、今後の展望について聞かせて下さい。
小野:国内の産業系排熱市場は70%が未利用で、その2%を市場と見立てた場合で最大4,000億円規模と試算しており、普及期に入る手応えを感じています。海外の大きな市場も視野に入れ、取得した特許を海外にも出願中です。今後は中核部品である膨張機は自社で生産し、その他はファブレスで製造します。販売はすでに引き合いのある大手機械商社にお任せし、将来的にはOEMやライセンス供与も視野に入れ、IPOを目指しています。
鮫島:自社技術を知財で固め、それを軸にファブレスやライセンス供与といった新しいビジネスモデルを構築する。知財戦略が単なる防御策ではなく、会社の未来を切り開く攻めの経営戦略になっている点が非常に興味深いです。本日はありがとうございました。
―「THE INDEPENDENTS」2025年9月号 P.8より
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<話し手> 株式会社馬渕工業所 代表取締役 小野 寿光 氏 (→ イベント登壇情報) 生年月日:1953年3月31日
出身高校:仙台市立仙台高等学校 出版社記者を経て1984年3月 当社入社 1988年5月 当社専務取締役 1996年12月 当社代表取締役社長 2007年5月 当社代表取締役(現任) 株式会社馬渕工業所
設 立:1966年5月14日 所在地:宮城県仙台市太白区郡山4-10-2 資本金:100,000千円(株主:小野寿光、小野直子) 事業内容:独立型ORC発電システム、水道本管工事、施工管理、修繕保守サービスなど 従業員:26名 |
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<聞き手> 弁護士法人内田・鮫島法律事務所 弁護士 鮫島 正洋 氏 1963年1月8日生。神奈川県立横浜翠嵐高校卒業。 1985年3月東京工業大学金属工学科卒業。 1985年4月藤倉電線(株)(現・フジクラ)入社〜電線材料の開発等に従事。 1991年11月弁理士試験合格。1992年3月日本アイ・ビー・エム(株)〜知的財産マネジメントに従事。 1996年11月司法試験合格。1999年4月弁護士登録(51期)。 2004年7月内田・鮫島法律事務所開設〜現在に至る。 |