<起業家インタビュー>
■ 介護事業で積み重ねた四半世紀
私は新卒で入社した建設資材会社で高齢者住宅事業に関わったことをきっかけに介護に関心を持ち、その後コムスンに入社しました。介護保険制度導入期の大規模リストラを経験し、「従業員満足なくして顧客満足なし」という信念を得ました。そして地元静岡に戻り、仲間と立ち上げたのがインフィックグループです。
以来24年間、在宅・施設介護を中心に、人材、教育、介護DX、少額短期保険、海外事業と多角的に展開してきました。創業から25年目を迎えた今年、私は次の成長ステージを「終活支援事業」と定め、IT企業として上場に挑戦する決断をいたしました。
■ 介護DXとSaaSへのこだわり
私は介護の未来を支えるにはITの力が不可欠だと考えています。インフィックの特徴は、介護現場の課題を熟知したうえで、それを解決するSaaS型のサービスを自社で開発したり、他社との連携をしてきた点にあります。AI等最先端の技術を駆使した見守りシステムや、介護記録連携やシフト管理といった業務支援はもちろん、職員同士のコミュニケーションや家族との情報共有など、現場で本当に必要とされる機能をクラウド上で実現してきました。
これまで介護業界は、ITリテラシーの低さや投資余力の乏しさからデジタル化が進みにくい分野でした。しかし、私はシンプルで誰もが使える仕組みに落とし込むことで、その壁を乗り越えてきました。これは単なるシステム提供ではなく、介護現場のオペレーションそのものをDXで変革する取り組みです。インフィックが培ってきたIT力こそが、今後の事業成長を支える基盤になると自負しています。
■ 終活支援事業「LASHIC link」の展開
その一環として2025年8月にリリースした「LASHIC link」は見守りサービスを提供するNPO法人エンリッチと協業のもと、LINEを活用した安否確認サービスです。利用者が定期メッセージに反応しなければ見守る側に自動的に通知が送られるシンプルな仕組みで、誰でもすぐに使えます。重要なのは、このサービスが終活支援プラットフォームの入口となり、安否確認から身元保証、生活支援、死後事務、相続・信託といった幅広いサービスに繋がる点です。
■ フランチャイズ連携の必然性
私は、終活支援事業をフランチャイズモデルで展開することにこだわっています。介護事業者はすでに地域社会で高齢者や家族と深い信頼関係を築いています。その基盤の上に「LASHIC link」を重ねれば、利用者は新しいサービスを不安なく受け入れることができます。介護事業者にとっても、介護保険収入に依存せず新たな収益源を確保できる点は大きな利点です。加えて、終活支援まで担うことで「人生の最期まで寄り添える事業者」として利用者からの信頼を一層深められるようになります。そして従業員にとっても、自分たちの仕事が最後まで人の役に立つと実感できることで誇りややりがいが高まり、人材定着にも繋がります。
■ 終活市場は連携の集合体
終活支援市場には葬儀社や遺言・相続サービス、遺品整理会社や不動産事業者、信託会社など多様なプレイヤーが存在します。それぞれが部分的に課題を解決していますが、利用者や家族にとってはサービスが断片的で分かりにくく、複雑な手続きを自分たちでつなぎ合わせなければならないのが現実です。私は、こうした事業者と積極的に連携し、「LASHIC link」をハブとしてワンストップで支援できる仕組みを構築したいと考えています。複数の事業者が一つのプラットフォームで有機的に繋がることで、利用者や家族は余計な手間を負わず、安心して老後を過ごすことができるのです。
■ 事業計画と資金計画
まずは全国に「Gerontology Station(GST)」を設置し、1年目に96拠点、5年目には1,296拠点に拡大する構想です。資金調達については、ファーストラウンドで5~10億円を確保し、プラットフォーム開発とコアメンバー採用を行います。その後、主要都市での展開、そして全国網羅を目指すと同時に終活金融商品等の開発を進めるため、30~50億円を確保し、最終的にIPOで数十億から数百億円規模の資金を調達し、グローバルに展開していく予定です。
なぜ今、上場なのか
創業から現在まで、私は介護業界の制度依存と限界を見てきました。介護は公共性の高い産業である一方、国の制度や報酬改定に収益が左右され、投資家からは成長性が見えにくい事業と評価されがちです。しかし終活支援事業は、制度依存度が低く、社会課題の解決と収益性を両立できる領域です。私はこの「LASHIC link」を独立させ、IT企業としての上場を果たすことで、資金調達力を高め、優秀な人材を呼び込み、国内外のパートナーと連携を広げていきたいと考えています。
interviewed by kips 2025.9.5
事業内容:介護総合支援事業(介護、人材、介護DX、金融、海外)
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【代表者略歴】 インフィック株式会社
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※「THE INDEPENDENTS」2025年10月号 - P.2-3より