記事のアイキャッチ画像
起業家インタビュー

別府発、「おんピタ」で温泉を科学する ―長寿国・日本の資産をヘルスケアへ

湯治ぐらし株式会社
菅野 静 代表取締役社長

温泉を、科学で選ぶ時代へ

 私たちは、大分県別府市・鉄輪温泉を拠点に、「おんピタ」という温泉マッチングアプリを開発しています。温泉の泉質と利用者の体質・体調・目的を組み合わせ、一人ひとりに最適な温泉を提案するサービスです。

 私たちが目指しているのは、温泉を「経験」や「口コミ」で選ぶ時代から、「データ」で選ぶ時代へ変えることです。温泉分析書をAI-OCRでデータ化した情報、医療系有資格者による入浴前後の実測データ、そして利用者自身が記録する体感データ。この三つのデータを組み合わせることで、これまで曖昧だった温泉の価値を科学的に可視化しようとしています。

温泉ウェルネスアプリ「おんピタ」

 日本には年間延べ1.3億人が温泉を利用しています。しかし、多くの方は知名度や観光地としての人気、口コミを手掛かりに温泉を選んでいます。本来、それぞれの温泉には泉質や成分に違いがあり、人によって相性も異なります。長寿国・日本が世界に誇る温泉という資産を、もっと健康づくりに生かせるはずだ―それが「おんピタ」開発の原点です。

激務の中で出会った「湯治」が私の人生を変えた

 私は電通グループで15年間、その後は地方創生コンサルティング会社で3年間働きました。広告・マーケティングの仕事は刺激的でしたが、一方で連日の激務に追われ、心身ともに疲弊する毎日でもありました。

 そんな私を救ってくれたのが、日本古来の養生法である「湯治」でした。全国の温泉地を巡るうちに、温泉は単なる観光資源ではなく、日本が世界に誇るヘルスケア資源ではないかと考えるようになりました。しかし、その価値は十分に伝わっておらず、多くの温泉地も泉質という本来の強みを生かし切れていませんでした。

 そこで2019年、私は温泉の聖地・別府へ移住し、個人事業として活動を開始しました。2023年には湯治ぐらし株式会社を設立し、「入浴・観光以外でも温泉の価値を創る」ことを事業として本格的にスタートさせました。温泉業界出身ではなく、一人の利用者として温泉に救われた経験があるからこそ、利用者と温泉地の双方が抱える課題を客観的に見ることができたと感じています。

別府で積み重ねたデータが私たちの競争力

 私たちは、アイデアだけのスタートアップではありません。個人事業時代から、別府でシェアハウス「湯治ぐらし」を4棟運営し、5年間で100名を超える長期滞在者を受け入れてきました。さらに2025年にはリトリート施設「七日一巡り」を開業し、湯治を暮らしに取り入れる実践の場も整備しています。

 また、環境省が推進する「チーム新・湯治」に2018年から参画し、環境省および別府市の事業を4年連続で受託しています。入浴前後の健康データは3,000件を超え、日本健康開発財団との共同研究、再春館製薬所様はじめ、さまざまな企業様との協業、地方創生VCからの出資にもつながりました。

 こうした実証フィールドとデータの蓄積は、一朝一夕では築けません。私たちは別府というフィールドで実績を積み重ねながら、「温泉データ」という独自の資産を育てています。

湯治ぐらし株式会社 実績・事業

「おんピタ」を核に温泉データプラットフォームを構築する

 私たちの事業は、三つの収益モデルで成長を目指しています。

 第一は、利用者向けのサブスクリプションサービスです。入浴履歴や体調変化を記録し、自分に合う温泉や健康状態を継続的に把握できるパーソナルヘルスサービスを提供します。月額500円(年額5,000円)の有料会員を5年後に15万人まで拡大し、約7.5億円の売上を目指しています。

 第二は、旅館や自治体向けのDXサービスです。施設ごとの泉質や利用者データを分析し、「どのような体質・目的の人に評価されている温泉なのか」を見える化します。これまで知名度や立地に左右されてきた温泉地が、泉質という本来の価値で選ばれる市場づくりを支援したいと考えています。

 第三は、データ事業です。蓄積した温泉データは、製薬会社や食品・化粧品メーカー、ヘルスケア企業、研究機関との共同研究やデータ提供へと展開できます。利用者が増えるほどデータベースの価値が高まり、マッチング精度も向上するため、「おんピタ」そのものが参入障壁の高いデータプラットフォームへ成長すると考えています。

別府から世界へ、温泉を長寿社会のインフラに

 私たちは5年後に売上10億円規模の事業を目標に掲げています。その実現には、有料会員の拡大だけでなく、全国の温泉施設データの整備、旅館や自治体への導入拡大、さらにはヘルスケア企業やウェアラブルデバイス、衣食住メーカー様との連携によるデータ活用を広げていくことが不可欠です。

 超高齢社会を迎えた日本では、「治療」から「予防」へと医療の考え方が変わり始めています。私たちは、温泉もその一翼を担えると信じています。

 目指しているのは、温泉アプリを普及させることではありません。別府で積み重ねたデータを基盤に、長寿国・日本が育んできた温泉文化を、科学的なヘルスケアへ進化させることです。その挑戦を、私たちは温泉の聖地・別府から始めています。


interviewed by kips 2026.7.10


【湯治ぐらし株式会社】
設  立:2023年4月26日
所  在  地:大分県別府市大字鶴見401番地の1
資  本  金:8,000千円(株主:経営陣、ミライドア株式会社)

代  表  者:菅野 静
事業内容:温泉DX事業、温泉ウェルネスツーリズム事業、シェアハウス事業、リトリート宿泊事業、温泉効

果測定サービス ほか
従業員数:4名

【代表者略歴】

湯治ぐらし株式会社 代表取締役社長 菅野 静 氏

湯治ぐらし株式会社 代表取締役社長

菅野 静  Kanno Shizuka

生年月日:1978年10月29日

出身高校:四天王寺高校

2001年、大阪外国語大学(現・大阪大学)外国語学部比較文化学科卒業。

電通グループにて15年、地方創生コンサルティング会社にて3年勤務後、2019年に大分県別府市・鉄輪温泉に移住・独立。

日本古来の養生法「湯治」文化の再興と温泉の高付加価値化に取り組む。環境省「チーム新・湯治」メンバー。

日本温泉地域学会、日本温泉科学会、日本温泉気候物理医学会会員。

2023年4月、湯治ぐらし株式会社を設立し、代表取締役社長に就任。

※「THE INDEPENDENTS」2026年7月号 - P.4-5より

企業情報

西日本

湯治ぐらし株式会社

シェアハウス事業、暮らしのコンテンツ事業、湯治リトリート宿泊事業、コンサルティング事業、温泉に関わる企画・制作・プロデュース・開発・管理

記事・登壇情報も掲載中
企業ロゴ
お気軽にお問合せください
毎週水曜配信のイベント・新着情報をお届けします。
事業計画やプレゼンのご相談を承ります。
投資や広告掲載、その他のご相談をお問合せください。
インデペンデンツクラブ
入会案内
寄付案内