【大分インデペンデンツ】大分から、挑戦者を育てる 教育・行政・地域がつくる スタートアップエコシステム
<イベントレポート>
2026年7月10日 大分インデペンデンツ
@ こもれびパーク 交流サロン https://comorebi-park.jp/
+ Zoom ウェビナー配信
(パネリスト)

立命館アジア太平洋大学
社会連携部長
国際経営学部 教授
藤田 正典 氏

大分工業高等専門学校
情報工学科
准教授
重松 康祐 氏

別府市 観光・産業部
産業政策課 課長補佐 兼
ツーリズムバレー推進係
係長 魚返(おがえり) 将和 氏
(モデレーター)

株式会社OMOYA
代表取締役
猪熊 真理子 氏
別府に集い、交わり、挑戦が生まれる
―国際人材・高専技術・温泉資源をつなぐ地域エコシステム―
「地域から上場やバイアウトを目指すスタートアップを育てることと、地域の経済や文化に価値を還元する挑戦者を育てること。この二つは少し違いますが、どちらも地域には必要です」
モデレーターを務めた猪熊氏が冒頭で論点を示すと、議論は早速、「別府だからこそ生まれる挑戦とは何か」に向かいました。
世界から人が集まる別府
別府の大きな特徴は、温泉観光地であると同時に、世界中から若者が集まる国際都市であることです。立命館アジア太平洋大学(APU)には100を超える国・地域から学生が集まり、学生の約半数を国際学生が占めています。異なる文化や価値観が日常的に交わる環境は、地方都市にありながら、海外市場や世界の社会課題を身近に考えられる土壌となっています。
藤田氏は、APU起業部の活動を通じて15件の起業が生まれた実績を紹介しました。一方で、「APUはいわゆる文系大学です。新たな事業の創造には、技術を持つ人たちとのコラボが有効です」と率直に語ります。
猪熊氏はすかさず、「では、APUの国際性や事業構想力と、地域の技術をどう結びつけるのでしょうか」と問いを重ねました。議論は、大分高専などとの連携へと進みます。
APUの構想力と高専の実装力
大分高専では、学生が15歳から情報工学、機械、電気などの専門分野を学びます。授業で知識を得るだけでなく、実験、部活動、卒業研究、技術コンテストを通じて、センサーや機械を組み合わせ、プログラムを書き、試作品を実際に動かすところまで経験します。
重松氏の研究室でも、農作業の省力化を目指す「ネギのAI皮むき装置」や、人が入りにくい水路を調査する点検ロボットなど、地域の農業・インフラ課題に直結した開発が進められています。
「アイデアを発表して終わるのではなく、自分たちで設計し、試作し、動かすところまで取り組めることが高専教育の特徴です」
重松氏が説明すると、猪熊氏は「ただ、技術的に作れることと、誰かがお金を払って使うことの間には距離がありますよね」と切り込みました。
重松氏も、技術だけでは社会的な価値や事業にはならないと応じます。誰が困っているのか、現場で本当に使えるのか、導入費用に見合うのか。農家や地域企業、行政と一緒に小さな実証を繰り返す必要があります。
APUが持つ国際感覚や事業構想力と、高専が持つAI、ロボティクス、機械・情報技術。両者が地域課題を介してつながることで、別府発の新しい事業が生まれる可能性が見えてきます。
外で得た経験を地域へ還す
議論は、学生が卒業後に県外へ出ていく人材流出にも及びました。
その話を具体的にしたのが、重松氏自身の経歴です。別府で育ち、大分高専を卒業した後、防衛省・防衛装備庁でロボティクスの研究に携わり、2022年に母校の教員として大分へ戻りました。現在は、外で培った研究開発の経験を学生教育に伝えるとともに、AIやロボットを地域の課題解決に応用しています。
猪熊氏は、リクルート時代に退職を「卒業」と呼び、社外で経験を積んだ人が再び会社に戻る例も多かったと紹介しました。
「若者を地域にとどめることだけが正解ではありません。外へ送り出した後も関係を切らず、経験や人脈を持って地域と再びつながれる環境をつくることが重要です」
別府で学んだ人材が東京や海外で力をつけ、起業、共同研究、投資、事業連携という形で大分とつながる。人材を囲い込むのではなく、行き来しながら知識と経験が還流する仕組みが求められています。
温泉地をヘルスケア産業の実証地に
魚返氏は、別府市が進める「別府ツーリズムバレー構想」を紹介しました。別府市とB-biz LINKが連携し、創業前の相談から事業化、成長支援までを継続的に支えています。
別府にあるのは、温泉や観光だけではありません。APUの国際人材、高専の技術者、医療・福祉機関、宿泊施設、地域事業者が近い距離に集まっています。中でも豊富な温泉資源は、観光に加え、湯治、予防医療、ウェルネス、健康データ、長寿といったヘルスケア産業へ広がる可能性があります。
猪熊氏が登壇者の発言を拾いながら、教育、技術、行政支援、人材循環を一つの流れにつなぐことで、別府の姿が鮮明になっていきました。
世界から人が集まるAPU、技術を形にする大分高専、温泉や観光、医療・福祉という実証フィールド。それぞれが単独で存在するのではなく、近い距離で出会い、試し、事業へ育てられることが別府の強みです。
挑戦者を一方的に育てるのではなく、国内外から人が集まり、地域の人材と交わり、新しい挑戦が生まれる。別府には、その条件がそろい始めています。
起業家スピーチ

ComBi代表
立命館アジア太平洋大学
国際経営学部
坂巻 大和(やまと) 氏
APU4回生の坂巻氏が取り組む「ComBi」は、外国人旅行者と地域住民、APUの学生をつなぐ体験マッチングサービスです。「地元の人と温泉に入りたい」「本当の別府を知りたい」といった旅行者のニーズに、英語、中国語、韓国語で対応します。2026年4月の開始後、週2件程度のマッチングを続けています。今後は、安全管理や集客、継続的な運営体制の構築が課題です。

一般社団法人 ママズケア
代表理事
南田 理恵 氏
観光とプレコンセプションケア、産後ケアを組み合わせた「Family Wellness City BEPPU」構想を発表しました。家族が別府に滞在し、温泉や地域資源を活用しながら心身を整えるサービスと、産後ケア人材の育成を両輪とします。自治体との連携実績を活かし、別府モデルとして全国への展開を目指します。
APUの国際性、大分高専の技術力、別府市の支援・実証環境。それぞれの強みを挑戦者を中心につなぎ、継続的な事業へ育てられるかが、大分・別府のスタートアップ・エコシステム形成を左右します。
※「THE INDEPENDENTS」2026年8月号 P.4-5より
※ イベント開催時点での情報です