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ベンチャー投資を考える

アントレプレナーという奇跡

國本 行彦 株式会社Kips 代表取締役

 映画『ラ・ラ・ランド』が好きで、これまで何度も観ています。中でも印象に残るのが、劇中歌「Audition(The Fools Who Dream)」に登場する、凍えるように冷たいセーヌ川へ飛び込んだ叔母の言葉です。

 “She said she’d do it again.”
 ―それでも、彼女は「またやるわ」と言った。

 失敗や挫折を経験しても、もう一度挑戦する。私はこの言葉に、アントレプレナーの本質が表れているように思います。

 

成功ではなく、学習を繰り返す

 私は約40年間、ベンチャーキャピタルの仕事に携わり、多くの起業家と出会ってきました。それでも、誰が成功する起業家なのかを、最初から正確に見極めることはできません。

 優れた技術があっても、事業として成功するとは限りません。大きな市場があっても、顧客に選ばれるとは限りません。経験豊富な経営者であっても、資金調達や組織づくりにつまずくことがあります。起業家の成功には、単純な再現性はないのです。

 成功する起業家が繰り返しているのは、成功そのものではありません。挑戦し、失敗し、そこから学び、次の行動に生かす。その学習のサイクルです。

 ただし、失敗から学ぶということは、何も考えずに始めればよいという意味ではありません。

 小さく始め、顧客の反応を見ながら改善していく方法は、限られた資金で事業の可能性を確かめるうえで有効です。しかし、目の前の反応に合わせて修正を重ねるだけでは、事業がどこへ向かうのかを見失うこともあります。

 

構想を言葉と数字にする

 起業家には、自分がどのような社会や市場をつくりたいのか、そのためにどのような事業を築くのかという構想が必要です。

 なぜこの事業を行うのか。誰の、どのような課題を解決するのか。既存の製品やサービスと何が違うのか。どのように収益を生み、どれだけの資金が必要なのか。将来、どのような会社を目指すのか。

 

 それを言葉と数字で表すものが、事業計画です。

 もちろん、計画どおりに事業が進むことはほとんどありません。しかし、計画がなければ、何が想定と違ったのかも分かりません。売上が伸びない原因は、顧客の設定にあるのか、価格や営業方法にあるのか、それとも開発や採用の遅れにあるのか。計画と実績を比較することで、初めて課題が明らかになり、次に何を変えるべきかが見えてきます。

 

 目指す姿を描き、事業計画を立てる。そして、現実から学び、必要に応じて計画を修正する。起業家には、計画をつくる力と、計画を変える力の両方が求められます。

 私は、株式公開を果たした起業家に会うたびに、「よくここまでやり抜いた」と感心します。彼らも、最初から正しい答えを知っていたわけではありません。実現したい未来を描き、計画を立て、現実との違いに向き合いながら、何度も軌道修正を重ねてきたのです。

 起業家が事業を成長させ、多くの人に必要とされる企業を築き、株式公開に至る。その過程を考えると、アントレプレナーの成功は、やはり一つの奇跡に近いと思います。

 

挑戦する機会をつくる

 アントレプレナー教育も、会社のつくり方や事業計画書の書式を教えるだけではありません。自分で課題を見つけ、仲間と考え、自分たちの構想を事業計画にまとめ、人前で発表する。そこで得た意見を受け止め、改善し、もう一度挑戦する。その一連の体験に意味があります。

 私たちが始めたSSP(SuperStudentsProject)※も、高校生をすぐに起業家にすることが目的ではありません。社会や身近な課題を見つけ、仲間と解決策を考え、実際に行動し、検証と改善を重ねる。その経験は、将来起業家になるかどうかにかかわらず、大きな財産になるはずです。

 インデペンデンツクラブが全国で事業計画発表会を続けているのも、発表時点で起業家や事業の成否を決めるためではありません。起業家が自らの構想を言葉と数字にし、投資家や支援者との対話を通じて課題に気づき、事業計画を磨いていく。その機会をつくることに意義があると考えているからです。

 

 成功する起業家は、知識を教えるだけで育つものではありません。自ら考えて行動し、失敗から学び、それでも挑戦を続ける。その積み重ねによって、起業家としての判断力や実行力が磨かれていくのだと思います。

 未来を描く。計画を立てる。挑戦する。失敗から学ぶ。そして、またやる。

 その繰り返しの先に、社会に新しい価値をもたらす企業が生まれるのだと思います。

 
※SSP:社会課題に挑む高校生の実践活動を寄付による助成金で支援する事業。現在、寄付を募集中です。

 

株式会社Kips 代表取締役 國本行彦

 

【國本 行彦】 
1960年8月21日生。
東京都立志村高校卒業。
1984年早稲田大学法学部卒業後、日本合同ファイナンス(現・JAFCO)入社。
2006年1月5日(株)インディペンデンツ(現(株)Kips)設立、代表取締役就任。
2015年11月9日 特定非営利活動法人インデペンデンツクラブ 代表理事就任(現副代表理事)
2020年6月 (株)ラクス社外取締役就任


※「THE INDEPENDENTS」2026年8月号 - P.13 より

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