株式会社Kips 代表取締役 國本行彦   【國本 行彦】 
1960年8月21日生。
東京都立志村高校卒業。
1984年早稲田大学法学部卒業後、日本合同ファイナンス(現・JAFCO)入社。
2006年1月5日(株)インディペンデンツ(現(株)Kips)設立、代表取締役就任。
2015年11月9日 特定非営利活動法人インデペンデンツクラブ 代表理事就任(現副代表理事)
2020年6月 (株)ラクス社外取締役就任

 

 私たちの原点は、「自立」にあります。

 Independentsは、その名のとおり、事業においても、資金においても、そして思想においても自立した人たちを支えるために設立されました。誰かに依存するのではなく、自ら考え、決断し、リスクを引き受ける。その覚悟を持った起業家とともに歩むこと。それが、私たちの出発点でした。

 私たちが創業以来掲げてきた理念は、「全国の個性溢れる起業家を発掘し、一人でも多くの人と一緒に、1社でも多くの公開会社を育てる」という一点に尽きます。 この理念は、20年という時間を経た今も、少しも揺らいでいません。しかし、環境が変わり続ける中で、その意味と実践の仕方は、これからも進化させ続けなければならないと、私は強く感じています。

 この10年で、日本のスタートアップ環境は大きく変わりました。東京への集中はさらに加速し、資金、人材、情報の多くが首都圏へと集まっています。一方で「地方創生」が叫ばれながら、地方の大学や若い人材は流出し続け、地域の存在意義そのものが問われています。

 それでも私は、地方には依然として大きな可能性があると信じています。地方には、東京の合理性や効率性とは異なる「違和感」や「非連続性」があります。それこそが、イノベーションの種です。地方大学には、研究・技術・人材という資産があり、それらが社会と正しく接続されれば、世界に挑戦できるスタートアップが生まれる土壌は十分にあります。そして、地方におけるスタートアップの意義は、単なる事業創出にとどまりません。若者の雇用を生み、「ここで働き、ここで生きる」という選択肢をつくることです。起業は、地域に未来を残す行為でもあります。

 Independentsは早い段階から、知的財産の重要性にも注目してきました。技術は、守られなければ活かされませんし、活かされなければ社会に必要とされません。知財弁護士の鮫島正洋氏との出会いは、私にその確信を与えてくれました。特許を取ること自体が目的なのではなく、その技術が社会でどう使われ、どう価値を生むのか。知財とは、研究と事業、技術と社会をつなぐための言語であり、武器です。

 どれほど優れた研究であっても、社会実装されなければ、人々の生活は変わりません。ノーベル賞級の研究であっても同じです。私は、長い時間をかけて地道に研究を積み重ねてきたディープテックの研究者や起業家に、心からの敬意を抱いています。その成果を社会に届けることこそ、私たちの役割の一つです。

 そもそも「個性溢れる起業家」とは、組織や既存社会からはみ出した存在です。多数決の社会では理解されにくく、変わり者と呼ばれ、時には厄介者扱いされることもあります。しかし、社会を前に進めてきたのは、常にそうした少数派でした。スタートアップとは、ハイリスク・ハイリターンの世界です。全員が賛成するアイデアから、大きな変革が生まれることはありません。多くの起業家は、理解されず、否定され、辛酸をなめてきました。「いつかは見返してやる」――その想いを胸に、誰にも評価されない時間を耐えてきた。その感情は、決して後ろ向きなものではありません。

 松下幸之助翁は、「怒りを持て」と語っています。それは、感情的(私憤)になれという意味ではありません。社会の不合理、理不尽、矛盾に対して「おかしい」と感じる感受性を失うな、ということです。その怒り(公憤)を原動力に変え、より良い社会を構想し、形にしていく――それこそが、事業家の使命だという教えです。起業家の反骨精神とは、破壊衝動ではなく、社会を良くしたいという強い意志の裏返しなのだと、私は受け取っています。

 現在、日本ではディープテックの方向性を国が定め、政策主導で資金が流れる現実があります。一方でニッチ型或いはローカルスタートアップが十分な資金を集められるのか、という点が課題になります。私は今もなお、事業を社会実装し、成長させるために資金は不可欠であると考えています。ここで言う資金とは、失敗を許容し、時間を味方につけるリスクマネーです。エンジェル投資家の存在、株式投資型クラウドファンディング、そして寄付という形で意思を託す行為は、これからも重要であり続けます。

 「一人でも多くの人と一緒に」という理念は、ここに直結します。スタートアップ投資が巨額化する中で、個人が参加できる仕組みを守り、広げること。誰が、どんな企業を応援するのか――それは、社会の意思表示そのものです。資本が「思想」を持つ時代において、その価値はこれからも高まり続けるでしょう。

 上場を取り巻く環境も、大きく変わりました。上場のハードルやコストは上昇し、MBOによる非上場化の動きも広がっています。それでも私は、公開会社となるパブリックカンパニーの意義は失われていないと考えています。公開会社=パブリックカンパニーとは、単に株式が市場で取引される企業ではありません。社会に対して説明責任を持ち、雇用を生み、価値を次世代へ引き継ぐ存在です。起業家にとって上場とは、自らの信念と人生を、社会に預ける行為でもあります。

 Independentsは、上場だけに固執することなく、M&Aも含めた多様な出口を尊重しながら、社会に必要とされ続けるパブリックカンパニーを一社でも多く、全国から育てていきます。

 個性溢れる起業家とともに。
 一人でも多くの人と一緒に。
 全国から、地方から、そして世界へ。

 これからも、ずっと、皆さまと共に、この理念を追求していきます。

 

※「THE INDEPENDENTS」2026年1月号 - P.14 より