エーアイシルク株式会社 代表取締役 岡野 秀生 氏
 × 弁護士法人内田・鮫島法律事務所 弁護士 鮫島 正洋 氏

導電性繊維に関する技術の商用化に成功

岡野:当社は、東北大学の持つ導電性高分子を繊維にコーティングする技術を軸として2015年に設立された大学発ベンチャー企業です。2020年には、MTG社の開発した電気刺激で筋肉を鍛えるスーツ『SIXPAD』の電極として当社の繊維が採用され、翌年に自社工場を設立、現在までウェアラブル分野における電極の製造販売を行っています。

鮫島:ウェアラブル分野における導電性繊維を活用した製品は、コロナ禍以前に一度ブームになりましたね。導電性繊維には銀コーティングなど複数の競合製品があったかと思いますが、御社の製品には、競合と比較してどのような特徴があるのでしょうか。

岡野:当社の導電性繊維は、断面を見ると導電性高分子が繊維の内部まで浸透しており、素材の柔らかさや柔軟性を損なうことなく高い導電性を持たせている点が特徴です。例えば銀ナノ繊維は塩分に弱いため、洗濯によって変色する可能性があります。製造方法の工夫により、他社の類似製品と比較しても洗濯耐久性が優れている点も強みです。

 

特許戦略による基本技術の保護と展開

鮫島:素材そのものだけでなく、製造方法にも優位性があることが理解できました。この優位性を今後も維持できるような特許戦略が重要になると思いますが、現在の特許の取得状況について教えて下さい。

岡野:すでに、導電性高分子を繊維に付着させる技術に関する特許を2018年に取得しています。現在、国際特許の申請を進めており、この基本特許に加えて周辺特許の出願も並行して進めています。今後はこれらの特許を選別しながら、アプリケーションに特化した特許を出願する予定です。

鮫島:今後はさらに、協業先との共同開発などが増えていく中で、開発によって生まれた発明を貴社が自由に利用できるように契約の条件に盛り込むなど、素材だけでなく、製品レベルまで踏み込んだ戦略が今後のカギになるのではないでしょうか。

 

自社ブランド「LEAD SKIN」の展開で事業の多角化を目指す

鮫島:最後に、今後の事業戦略について教えて下さい。

岡野:『SIXPAD』に採用されたことで、当社の売上は右肩上がりで拡大し、設立5年目で黒字を計上するまでに至りました。しかし、コロナ禍以降、ウェアラブル市場の拡大は鈍化しており、さらなる成長のためには、2本、3本の柱を築く必要があります。そこで「LEAD SKIN」というブランドを立ち上げ、自動車のシートや内装に当社の繊維を活用することや、医療分野における心電図測定やリハビリ等に活用することを検討しています。

鮫島:「ゴアテックス」のように「LEAD SKIN」もライセンス料を設けることは可能だと思います。現状ではまだブランドに十分な価値が備わっていませんが、ブランドとしての権威性が高まった段階で、何らかの形で有料化することは可能だと思います。貴社の場合は、特許によって技術的な優位性は既に確立できているため、ブランドという定性的な価値を高められれば、さらにスムーズに普及が進むのではないでしょうか。本日はありがとうございました。

―「THE INDEPENDENTS」2025年7月号 P.12より

※冊子掲載時点での情報です
 
 

 
エーアイシルク株式会社 代表取締役 岡野 秀生   <話し手>
エーアイシルク株式会社 代表取締役 岡野 秀生 氏
(→ イベント登壇情報
 
工学院大学 電気工学科卒業
1990年にオリンパス(株)に入社してICレコーダ開発し事業立上げ、無線機能付きデジタルカメラ開発にてプロジェクトリーダを歴任 。
2003年にITX(株)に出向し、ベンチャー企業の投資育成やジョイントベンチャー立ち上げを担当。
 
エーアイシルク株式会社
設 立:2015年6月1日
所在地:宮城県仙台市青葉区中央三丁目3番3号三丸ビル3階
資本金:99,000千円
事業内容:リードスキン(電極)の製造・販売、リードスキン(電極)の応用関連商品の製造・販売


弁護士法人内田・鮫島法律事務所 代表弁護士 鮫島 正洋 氏    <聞き手>
弁護士法人内田・鮫島法律事務所 弁護士 鮫島 正洋 氏
1963年1月8日生。神奈川県立横浜翠嵐高校卒業。
1985年3月東京工業大学金属工学科卒業。
1985年4月藤倉電線(株)(現・フジクラ)入社〜電線材料の開発等に従事。
1991年11月弁理士試験合格。1992年3月日本アイ・ビー・エム(株)〜知的財産マネジメントに従事。
1996年11月司法試験合格。1999年4月弁護士登録(51期)。
2004年7月内田・鮫島法律事務所開設〜現在に至る。