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「同一の商品名が付され、同一の商品形態だとしても、不正競争防止法2条1項1号該当性が否定された事例」

公開


弁護士法人 内田・鮫島法律事務所
弁護士/弁理士 高橋 正憲 氏

2004年北海道大学大学院工学研究科量子物理工学専攻修了後、(株)日立製作所入社、知的財産権本部配属。2007年弁理士試験合格。2012年北海道大学法科大学院修了。2013年司法試験合格。2015年1月より現職。

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東京地裁平成12年6月29日判決

〔エアガン事件〕


1 事案

 イタリアの銃メーカーであるベレッタ社が、日本国内で、同社の商品名のおもちゃ銃(エアガン等)を販売する被告らに対し、不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為に該当するとして、商品の販売の差止、損害賠償等を請求した事案です。
 被告製品は、原告製品の形態をしており、本体や、パッケージにも「BERETTA」等の標章が付されて販売されていました。

2 東京地裁の判断

 「・・・模型は、古代における墳墓の副葬品に既にその原形が見られるように、古くから人類によって製作されてきたものであり、模型の有する右のような特徴は、長年にわたって広く社会的に認識されてきた。また、本物の備える機能を有さず、外観のみを忠実に模したものであるという模型の本質的特徴から、一般に、模型の需要者は本物のそれとは異なるものであり、模型の製造販売の主体も、本物のそれとは異なるのが通常である。
 そして、模型の形状や模型に付された表示が本物のそれと同一であったとしても、模型の当該形状や表示は、模型としての性質上必然的に備えるべきものであって、これが商品としての模型自体の出所を表示するものでないことは、広く社会的に承認されているものである。右の点は、模型が、航空機や建築物のプラモデルやミニチュアカーのように縮尺されたものであるか、あるいはモデルガンのように原寸大のものであるかによって、何ら異なるものではない。
 ・・・本件においては、前記認定の事実関係によれば、被告商品は、我が国においては、市場において流通することがなく、所持することも一般に禁じられている実銃であるM93Rを対象に、その外観を忠実に再現したモデルガンであり、実銃の備える本質的機能である殺傷能力を有するものではなく、実銃とは別個の市場において、あくまで実銃とは区別された模造品として取引されているものであって、その取引者・需要者は、原告実銃の形状及びそれに付された表示と同一の形状・表示を有する多数のモデルガンの中から、その本体やパッケージ等に付された当該モデルガンの製造者を示す表示等によって各商品を識別し、そのモデルガンとしての性能や品質について評価した上で、これを選択し、購入しているものと認められる。
 したがって、原告実銃において原告各表示が原告ベレッタの商品であることを示す表示として使用されており、また、被告商品に原告実銃に付されている原告各表示と同一ないし類似の被告各表示が付されているとしても、被告各表示は、いずれも出所表示機能、自他商品識別機能を有する態様で使用されているものではないというべきである。」
 「被告商品が一般に流通することがなく、所持することもできない実銃の外観を再現したモデルガンであり、その基となった実銃とは別個の市場において、あくまで本物と区別された模造品として取引されているものであること、原告ベレッタはこれまで玩具銃を製造・販売したことがないこと、原告ベレッタが我が国において販売した模型銃は、観賞のために実銃から発砲機能、稼働機構を除去した高価なものであり、玩具銃とは性質を異にし、その輸入数量も僅少であること、原告ベレッタが実銃のほかに「Beretta」等の表示を付して販売している商品は、いずれも実銃の関連商品としてのいわゆるシューティング・アクセサリーの類で、主に実銃所持者を販売対象とするものであり、その販売数量も多くないことなどの事実関係に加え、およそ実銃メーカーが玩具銃を製造販売し、玩具銃メーカーが実銃を製造販売していることをうかがわせる証拠はないこと、かつて国外の玩具銃業者が原告ベレッタからライセンスを受けて玩具銃を製造販売したことがあったとしても、その玩具銃が我が国において販売されたことを認めるに足りる証拠はなく、また、そのようなライセンス生産の事実が我が国において一般に知られていることをうかがわせる証拠もないことなどを併せみれば、被告商品及びそのパッケージ等に被告各表示が付されているからといって、その玩具銃が原告ベレッタ若しくはその子会社又はそのライセンシーの製造に係るものであると誤認されるおそれがあるものとは認められず、したがって、広義の混同を生じさせるものではない。」と判示し、裁判所は、被告の行為は不正競争防止法2条1項1号の不正競争に該当しないと判断しました。

3 本判決から学ぶこと

 本件は、イタリア本国の銃メーカーの銃を、無断で,おもちゃ(エアガン)として販売した行為が不正競争防止法2条1項1号の不正競争に該当しないと判断されました。
 この事案から、商品名や、商品形態が同一だとしても、模型やおもちゃであれば、不正競争行為に該当しない可能性があることに注意が必要です。
 ただ、本件の特殊性として、銃自体は日本で所持が禁止されており、日本には銃市場が存在しない点がありますので、無許可での模型やおもちゃを販売する行為が直ちに適法になるとは言えません。その他、商標権や意匠権の問題は別の問題であることも留意が必要でしょう。
 とはいえ、商品名や商品形態が同一だとしても、不正競争行為に該当しない可能性がある点は、企業活動を遂行する上で、参考になる事例でしょう。

以上

※「THE INDEPENDENTS」2022年2月号 P14より
※掲載時点での情報です


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