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「写真を参考にしたイラストの著作権侵害が争われた事例」

公開


弁護士法人 内田・鮫島法律事務所
弁護士/弁理士 高橋 正憲 氏

2004年北海道大学大学院工学研究科量子物理工学専攻修了後、(株)日立製作所入社、知的財産権本部配属。2007年弁理士試験合格。2012年北海道大学法科大学院修了。2013年司法試験合格。2015年1月より現職。

【弁護士法人 内田・鮫島法律事務所】
所在地:東京都港区虎ノ門2-10-1 虎ノ門ツインビルディング東館16階
TEL:03-5561-8550(代表)
構成人員:弁護士25名・スタッフ13名
取扱法律分野:知財・技術を中心とする法律事務(契約・訴訟)/破産申立、企業再生などの企業法務/瑕疵担保責任、製造物責任、会社法、労務など、製造業に生起する一般法律業務
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東京地判平成30年3月29日判時2387号121頁


1 事案 *1

 本件は、原告が、被告において原告の販売する写真素材を原告に無断でイラスト化して自らの作品に使用して販売した行為が、原告の当該写真素材に係る著作権を侵害すると主張して、被告に対し、不法行為に基づき、損害賠償金の支払を求める事案です。
 本紙面では、職務著作該当性の争点について紹介します。
*1)本件は、他にも争点がありますが、紙面の都合で著作権侵害の論点に絞って紹介しています。

2 東京地裁の判断

 東京地裁は、被告は本件写真素材に係る著作権を侵害したかについて、以下のとおり判示しました。すなわち、「本件イラストは,別紙2のとおりのものであり,A5版の小説同人誌の裏表紙にある3つのイラストスペースのうちの一つにおいて,ある人物が持つ雑誌の裏表紙として,2.6センチメートル四方のスペースに描かれている白黒のイラストであって,背景は無地の白ないし灰色となっており,薄い白い線(雑誌を開いた際の歪みによって表紙に生じる反射光を表現したもの)が人物の顔面中央部を縦断して加入され,また,文字も加入されているものである。」と認定し、「本件写真素材の表現上の本質的特徴は,被写体の配置や構図,被写体と光線の関係,色彩の配合,被写体と背景のコントラスト等の総合的な表現に認められる。一方,前記前提事実(3)のとおり,本件イラストは本件写真素材に依拠して作成されているものの,本件イラストと本件写真素材を比較対照すると,両者が共通するのは,右手にコーヒーカップを持って口元付近に保持している被写体の男性の,右手及びコーヒーカップを含む頭部から胸部までの輪郭の部分のみであり,他方,本件イラストと本件写真素材の相違点としては,①本件イラストはわずか2.6センチメートル四方のスペースに描かれているにすぎないこともあって,本件写真素材における被写体と光線の関係(被写体に左前面上方から光を当てつつ焦点を合わせるなど)は表現されておらず,かえって,本件写真素材にはない薄い白い線(雑誌を開いた際の歪みによって表紙に生じる反射光を表現したもの)が人物の顔面中央部を縦断して加入されている,②本件イラストは白黒のイラストであることから,本件写真素材における色彩の配合は表現されていない,③本件イラストはその背景が無地の白ないし灰色となっており,本件写真素材における被写体と背景のコントラスト(背景の一部に柱や植物を取り入れながら全体として白っぽくぼかすことで,赤色基調のシャツを着た被写体人物が自然と強調されているなど)は表現されていない,④本件イラストは上記のとおり小さなスペースに描かれていることから,頭髪も全体が黒く塗られ,本件写真素材における被写体の頭髪の流れやそこへの光の当たり具合は再現されておらず,また,本件イラストには上記の薄い白い線が人物の顔面中央部を縦断して加入されていることから,鼻が完全に隠れ,口もほとんどが隠れており,本件写真素材における被写体の鼻や口は再現されておらず,さらに,本件イラストでは本件写真素材における被写体のシャツの柄も異なっていること等が認められる。これらの事実を踏まえると,本件イラストは,本件写真素材の総合的表現全体における表現上の本質的特徴(被写体と光線の関係,色彩の配合,被写体と背景のコントラスト等)を備えているとはいえず,本件イラストは,本件写真素材の表現上の本質的な特徴を直接感得させるものとはいえない。」として、著作権侵害の成立を否定した。

3 本裁判例から学ぶこと

 写真を参考にしたイラストも著作権侵害となりうるものです。侵害となるか否かのポイントは、この判決も判示しているとおり、「写真素材の表現上の本質的特徴は,被写体の配置や構図,被写体と光線の関係,色彩の配合,被写体と背景のコントラスト等の総合的な表現」ですので、写真に現れている写真独自のこれらの特徴点が、イラストでも表現されているかの点が重要となります。被写体のポーズなどが類似していても、写真独自の特徴点が共通しないと侵害とはならないのです。
 本件では、写真とイラストでは、「右手にコーヒーカップを持って口元付近に保持している被写体の男性の,右手及びコーヒーカップを含む頭部から胸部までの輪郭の部分」は共通していましたが、①本件写真素材における被写体と光線の関係,②本件写真素材における色彩の配合,③被写体と背景のコントラスト,④光のあたり具合等が相違するので、結局は、非侵害と判断されました。
 企業活動では、様々な創作物を扱う場面に遭遇するので、本判例は参考となるでしょう。

※「THE INDEPENDENTS」2020年12月号 - P16より
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