海藻で畜産の未来を変える
0.2%の海藻が、世界の畜産課題を変える
牛のげっぷに含まれるメタンはCO₂の約27倍の温室効果を持ちます。家畜由来のメタンは、世界の人為起源温室効果ガス排出の約6~7%に相当すると推計され、牛に関連する排出量を一つの国に見立てると、中国、米国に次ぐ世界第3位に相当するとされるほど、畜産由来の排出は世界的に大きな課題となっています。
この世界的課題に海から挑むのが、鹿児島県指宿市に拠点を置くカギノワです。同社が活用する紅藻「カギケノリ」は、海外の研究において、飼料摂取量のわずか0.2%相当で牛のメタン排出を大幅に削減する効果が報告されています。商業規模の試験では58~98%の削減に加え、飼料効率の改善も確認されています。畜産現場で大規模な設備投資を必要とせず、既存の飼養体系の中で導入できる点にも可能性があります。
漁業と畜産をつなぐ「鹿児島モデル」
カギノワは海藻を生産・販売するだけではなく、漁協・漁業者と連携して海面養殖技術の確立を進め、将来的に加工したカギケノリを畜産現場へ安定供給する地域サプライチェーンの構築を進めています。漁業には未利用海域を活用した新たな収益機会を生み出し、畜産にはメタン削減と飼料効率改善という価値を提供します。畜産と漁業がともに盛んな鹿児島でこの循環モデルを確立し、全国へ展開することを目指しています。
さらに、メタン削減量を測定・検証し、カーボンクレジットなどの環境価値につなげることで、飼料添加物の販売に環境価値を加えた二層の収益モデルを構想しています。毎日使用される飼料添加物による継続収益に、脱炭素による新たな価値を組み合わせる点が、収益面での特徴です。

「複合知財」を武器に量産化へ
成長の鍵を握るのが、カギケノリの安定・大量供給です。前身プロジェクトから研究開発を重ね、鹿児島由来株をはじめとする人工種苗生産技術を確立し、海面での育成にも成功しています。今後は培養設備と海面養殖の生産体制を拡大するとともに、全国の漁協・漁業者との連携を進め、カギケノリの養殖を全国へ展開していくことを目指しています。
また、カギノワは単一の特許だけに依存するのではなく、人工種苗、養殖、加工・品質管理、規制対応、実証データに加え、漁協・漁業者をはじめとする地域との連携基盤などを組み合わせた「複合知財」によって競争力を高めています。技術やデータを蓄積するだけではなく、地域と連携した供給体制そのものを構築することで、模倣されにくい事業基盤につなげていく考えです。

鹿児島から世界の気候テック市場へ
畜産メタンは日本だけではなく、世界共通の課題です。カギノワは鹿児島で養殖から飼料利用、環境価値化までのモデルを確立するだけではなく、日本沿岸の多様な海域と漁業ネットワークを活用して生産地域を広げ、将来の海外展開につなげようとしています。
漁業に新たな収益源を、畜産に生産性と脱炭素を、社会に温室効果ガス削減をもたらす。鹿児島から始まる「海と牛の循環」を全国、そして世界へ広げることが、カギノワの挑戦です。
コメンテーターより

弁護士法人内田・鮫島法律事務所
弁護士 高玉 峻介 氏
発表では、主に、カギケノリで牛のげっぷに含まれるメタンを減らすというお話をいただきましたが、発表後、畜産そのものにとっても有用であると伺いました。環境への貢献と、使う側にとっての実際の価値が両立している点に、この事業の強さを感じます。また、地元の漁業者と連携してカギケノリの供給体制を築く取組は、地域産業にも新たな可能性をもたらすものだと思います。鹿児島から始まった挑戦が、畜産の現場に広く届くことを期待しています。
※「The INDEPENDENTS」2026年10月号 - P.10 掲載
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