<起業家インタビュー>

■「お帰りなさいませ」―メイドカフェには人を元気にする力がある

 名古屋・大須を拠点にメイドカフェを展開する株式会社プロジェクトセレネ。現在は名古屋、東京、沖縄で17店舗を運営し、グループ全体で200名を超えるスタッフが働いています。私がメイドカフェ業界に入ったのは2004年。当時はまだ業界への理解も少なく、今のように広く認知されている存在ではありませんでした。ただ、お給仕を続ける中で忘れられない言葉があります。

 お客様から「ここに来ると元気になれる」「また頑張ろうと思える」と言っていただいた言葉。
 メイドカフェには「いらっしゃいませ」ではなく「お帰りなさいませ」という文化があります。
メイドカフェ BLUE EGG Nagoya

 私は子どもの頃から家庭環境に悩み、自分の居場所を探していた時期がありました。だからこそ、この場所が誰かにとって安心できる居場所になっていることに大きな価値を感じたのです。メイドカフェは単なる飲食店ではありません。人と人とのつながりを生み、誰かの心を明るくすることができる場所です。その価値をもっと多くの人に届けたい。その想いから、自分の貯金をすべて投じて起業しました。

リピート率が価値を生むビジネス

 一般の方はメイドカフェを飲食店として捉えていると思います。メイドカフェはもちろん飲食店ですが、本質はエンターテインメントです。私たちは食事だけでなく、世界観や体験、コミュニティを提供しています。キャストとの会話や店舗ごとの世界観、仲間との交流を楽しみに来られます。そのため、一度来店して終わりではなく、長く通っていただくお客様が多いのが特徴です。

 客単価は店舗によって異なりますが、一般的なカフェよりは高くなります。ただ、高額消費を求めるビジネスではありません。重要なのは来店回数です。お客様との信頼関係を築きながら、長く支持していただける店舗づくりを重視しています。また、売上も飲食だけではありません。イベントやグッズ販売など複数の収益源があり、一般的な飲食業とは異なる収益構造を持っています。

出店より先に人材を育てる

 私は創業以来、「人材が先、物件は後」という考え方を大切にしてきました。メイドカフェは設備や立地だけでは成り立ちません。最終的に価値を生み出すのは人です。当社には学生、クリエイター志望、声優や芸能活動を目指す方など、さまざまな夢を持つ仲間が集まっています。共通しているのは、人を楽しませることが好きだということです。だからこそ、店舗数を増やすことよりも、未来の店長やマネージャーを育てることを優先してきました。人が育てば店が育つ。店が育てば会社が育つ。

 地道な積み重ねが、現在の17店舗につながっているのだと思います。

大須から秋葉原へ――本場で挑んだブランドづくり

 大須もコンセプトカフェ文化が根付く街ですが、市場規模や知名度では秋葉原が本場です。全国、そして世界からお客様が集まる秋葉原で評価されることは、自社ブランドの価値そのものを証明することだと考えていました。東京進出は決して簡単な挑戦ではありませんでしたが会社として次のステージへ進むためには避けて通れない挑戦でもありました。

 実際に出店してみると、インバウンド需要の大きさにも驚かされました。海外のお客様が日本文化を体験するために来店され、「日本で一番楽しみにしていた場所の一つです」と言ってくださることもあります。そのたびに、私たちが提供しているものは単なる接客ではなく、日本文化そのものなのだと実感します。

世界が注目する日本のポップカルチャー

 海外展開については非常に大きな可能性を感じています。アニメやゲーム、コスプレなど、日本のポップカルチャーは世界中で支持されています。メイドカフェもその一つです。沖縄、秋葉原の店舗では外国人のお客様が年々増えており、日本旅行の目的の一つとして来店される方も珍しくありません。私はメイドカフェを単なる店舗ビジネスではなく、日本文化を発信するプラットフォームだと考えています。寿司やラーメンが世界へ広がったように、日本独自のエンターテインメント文化として海外へ展開できる可能性は十分にあると思います。

業界の未来は自分たちでつくる

 私は会社経営と同時に、名古屋・大須コンセプトショップ協会の活動にも力を入れています。理由はシンプルです。自社だけが成長しても、業界全体への信頼がなければ未来はないからです。コロナ禍以降、コンセプトカフェ市場は大きく拡大しました。一方で、業界に対する誤解や偏見が残っていることも事実です。実際に創業当初、金融機関から「メイドカフェへの融資は前例がない」と言われたこともありました。だからこそ私は、行政や警察、商店街と連携しながら、業界全体の健全化と地域との共生に取り組んでいます。だからこそ、自社だけでなく業界全体の信頼を高めることが重要だと思っています。

2022年8月 大須コンセプトショップ協会 設立2022年8月 大須コンセプトショップ協会 設立

フランチャイズ、そして世界へ

 フランチャイズ展開や海外展開を考えると、東京プロマーケット(TPM)の活用も選択肢の一つです。資金調達という面もありますが、私が魅力を感じるのは社会的信用の向上という意味でも大きな価値があると考えています。メイドカフェ業界はまだ発展途上ですので、企業や業界の信頼性を高める手段としては非常に有効だと思います。日本発のコンセプトカフェ文化を、世界に誇れる産業へ。その挑戦をこれからも続けていきたいと思っています。


interviewed by kips 2026.5.22




【株式会社プロジェクトセレネ】
設  立:2017年6月8日
所  在  地:愛知県名古屋市中区大須3-30-60
資  本  金:8,000千円(株主:男城 月菜)
代  表  者:男城 月菜
事業内容:コンセプトカフェ、飲食店舖運営
従業員数:180名

株式会社プロジェクトセレネ 代表取締役 男城 月菜 氏

 

【代表者略歴】

株式会社プロジェクトセレネ
代表取締役
男城 月菜 氏 Ojiro Tsukina

 
生年月日:1990年7月16日
出身高校:安城学園高等学校

2004年2月 ㈱グッドウィル メイドカフェにて2年勤務
2006年5月 ㈱9th メイドカフェにて7年半勤務
2014年4月 個人事業としてメイドカフェオープン
2017年6月 ㈱プロジェクトセレネ設立、現在17店舗運営
2018年2月 ㈱スタジオセレネ設立、現在4店舗運営


※「THE INDEPENDENTS」2026年7月号 - P.4-5より