Veneno Technologies株式会社 代表取締役 久野 孝稔 氏
 × 弁護士法人内田・鮫島法律事務所 弁護士 鮫島 正洋 氏

■ 未開拓の領域「DRP」を実用化するプラットフォーム

鮫島:貴社は、産業技術総合研究所(AIST)発のスタートアップとして、高機能ペプチドを活用した創薬・農薬・マテリアル分野への応用開発を行っています。まずは、核となる技術について教えてください。

久野:私たちは、天然毒などに含まれる「ジスルフィドリッチペプチド(DRP)」の安定した立体構造に着目し、その構造(スキャフォールド)を基盤として、遺伝子工学や分子設計技術を用いて機能を最適化したDRPを創出しています。生の毒そのものを利用するのではなく、自然が長い進化の中で生み出した優れた構造を“ひな形”として活用し、創薬・農業・マテリアル分野へ展開するプラットフォームを開発しています。

 DRPは、複数のジスルフィド結合によって非常に安定した立体構造を持ち、低分子医薬と抗体医薬の中間的なサイズ特性を持つことが特徴です。そのため、低分子では十分な選択性を出しにくく、抗体では届きにくかった「イオンチャネル」や「GPCR」などの膜タンパク質に対して、高い親和性と選択性を発揮できる可能性があります。

鮫島:低分子と抗体のいずれでも届かなかったターゲットを狙い撃ちできる、新たな選択肢になるというわけですね。

久野:その通りです。DRPは高活性かつ安定性に優れた非常に有望なモダリティですが、従来は生産コストが極めて高く、安定供給も難しいことから、実用化の大きなボトルネックとなっていました。私たちは、産総研で開発された独自技術を基盤に、大腸菌を用いてDRPを「安く・早く・正確に」生産できる「Veneno Suite™」という一気通貫の技術を活用し、そのボトルネックを解消しました。

■ 産総研特許と独自ノウハウによる「二段構え」の防御

鮫島:非常に有望な市場ですが、知財面での差別化はどのように図っているのでしょうか。

久野:根幹となる生産手法については、産総研が保有する特許の独占ライセンスを受けています。その上で、当社では独自の製造・精製・品質管理プロセスを積み重ねており、「Super Secrete法」をはじめとする高純度化・安定量産化に関する周辺技術については、あえて特許化せず、ブラックボックス化したノウハウとして管理しています。

鮫島:非常に賢明な判断です。基本特許で入り口を押さえつつ、具体的な製造方法の核心部分はブラックボックス化して守る。この二段構えこそが、模倣困難性を生んでいるのだと思います。

久野:加えて、DRPそのものだけでなく、「どのスキャフォールドを、どのターゲットに適用するか」という設計ノウハウも重要な競争力だと考えています。創薬のみならず、農薬、細胞農業、機能性素材など、用途ごとに最適化されたDRPライブラリや評価系を構築しており、それらを含めた知財・ノウハウの蓄積によって、パートナー企業との共同研究においても主導権を維持できる体制を整えています。

■ 共同研究における「成果の帰属」と出口戦略

鮫島:多くの製薬会社と共同研究を進める中で、フォアグラウンドIP(共同研究の過程で新たに創出された知財)の取り扱いは非常に重要になります。ここが曖昧だと、プロジェクトが途中で止まった際に、その成果を他社との事業に転用できず、身動きが取れなくなるリスクがありますね。

久野:おっしゃる通りです。実際、共同研究では相手企業の戦略変更や優先順位の見直しによって、途中でプロジェクトが終了するケースもあります。そのため当社では、基盤技術やプラットフォーム部分については当社側に権利が残る形を基本としながら、個別テーマごとの成果物についても、将来的な再活用可能性を意識して契約設計を行っています。

鮫島:プロジェクトが頓挫した場合には、成果をVeneno側が自由に利用できるようにする、あるいは秘密保持契約(NDA)の対象外とするといった条項を、契約段階で組み込んでおくことが重要です。そうした配慮が、自社技術を腐らせないための知財戦略につながると思います。

久野:はい。特にプラットフォーム企業の場合、一つの案件だけに依存せず、多様な産業やパートナーへ横展開できることが重要です。そのため、知財や契約の設計についても、「次につながる構造」を意識しながら進めています。

■ グローバル展開を視野に入れつつ、幅広い産業へ横展開

鮫島:今後はどのような展望を描いていますか。

久野:創薬分野では、疼痛、中枢神経、放射性医薬品などへの応用を進めています。一方で、農業分野では特定の害虫にのみ作用する次世代型バイオ農薬、さらには細胞農業やマテリアル領域などへの展開も視野に入れています。現在はAIも活用しながら、DRPの設計・探索・最適化を高速化するプラットフォームの構築を進めています。

鮫島:独自の生産技術があるからこそ、多方面への横展開が可能になるわけですね。

久野:はい。私たちは、DRPを単なる一つの研究テーマではなく、「世界標準のモダリティ」に育てていきたいと考えています。未踏ターゲットへの創薬や産業応用を切り拓く、日本発のプラットフォーム技術として、グローバル市場で存在感を持つ企業になることが目標です。

鮫島:知財の守りと独自の生産技術が噛み合った、非常に強固な戦略だと感じました。今後が楽しみですね。本日はありがとうございました。

―「THE INDEPENDENTS」2026年6月号 P.6より

※冊子掲載時点での情報です
 
 

 
Veneno Technologies株式会社 代表取締役 久野 孝稔 氏   <話し手>
Veneno Technologies株式会社 代表取締役 久野 孝稔 氏
(→ イベント登壇情報
 
生年月日:1976年10月29日
出身高校:茨城高校
1999-2008 茨城県庁
2008-2018 CYBERDYNE(株)
2018-2020 武田薬品工業(株)
2020-2023 ノバルティスファーマ(株)
2023-2024 シミックホールディングス(株)
2025-1月ー9月 ライズコンサルティンググループ(株)

弁護士法人内田・鮫島法律事務所 代表弁護士 鮫島 正洋 氏    <聞き手>
弁護士法人内田・鮫島法律事務所 弁護士 鮫島 正洋 氏
1963年1月8日生。神奈川県立横浜翠嵐高校卒業。
1985年3月東京工業大学金属工学科卒業。
1985年4月藤倉電線(株)(現・フジクラ)入社〜電線材料の開発等に従事。
1991年11月弁理士試験合格。1992年3月日本アイ・ビー・エム(株)〜知的財産マネジメントに従事。
1996年11月司法試験合格。1999年4月弁護士登録(51期)。
2004年7月内田・鮫島法律事務所開設〜現在に至る。