emol株式会社 代表取締役CEO 千頭 沙織 氏
× 弁護士法人内田・鮫島法律事務所 弁護士 鮫島 正洋 氏
認知行動療法をアプリ「emol」の展開
鮫島:精神疾患(統合失調症、うつ病、不安障害、依存症、てんかんなど)やこころの不調などに対しては、 薬物療法、心理療法(カウンセリング)、作業療法などがあります。貴社は、認知行動療法サポートアプリ「emol」を提供しています。
千頭:私どもは、精神疾患の診療ガイドラインで第一推奨とされる認知行動療法(CBT)を広く普及させることをミッションとしています。しかし精神疾患医療従事者数は少なく、CBTはわずか6.2%しか実施できていないという課題があります。そこで、人間の代わりにアプリが【診察を代替する】→【治療プロセスの一部を担い、診療を補完する】ことで、地理的・時間的制約なく患者様に届けることを目指しています。
精神疾患治療のバリューチェーンを展開
千頭:現在、強迫症や不安症向けの治療用アプリ「emol」を開発しており、特に強迫症のアプリは世界初の治療用アプリとなる可能性があります。ゆくゆくは治療用アプリの研究開発に留まらず、疾患啓発、オンラインカウンセリング、診断、そして将来的なオンライン診療まで、精神疾患治療のバリューチェーン全体を包括的にサポートするプラットフォーム事業へと展開を広げる方針です。
鮫島:従来の「アプリベンダー」から「精神疾患治療のプラットフォームを提供する会社」への転換期を迎えているということですね。アプリ単体ではなく、その周辺領域から再発予防までをカバーすることで、事業としての持続可能性と競争力が格段に高まると感じます。
医療アプリの薬事承認に立ちはだかる壁
鮫島: 日本で医薬品や医療機器を製造・販売し保険適用を受けるためには、PMDA(医薬品医療機器総合機構)の審査を経て、品質・有効性・安全性を確認し、厚生労働大臣の認可が必要となります。薬事承認を得るためには高額な治験費用が必要となります。
千頭:現在、強迫症で進めている治験はフェーズ2ですが、CRO(治験代行会社)への依頼費用、そして治験に参加される医療機関への支払いなど、これだけで1.5億円かかっており、薬事承認に必要なフェーズ3を実施するとなると4億円程度に上る見込みです。事業単体で見れば採算が取れる見込みはありますが、治験で数億円の赤字を抱えているため、資金調達の難しさに直面しています。
鮫島: 治験費用に加え、日本の規制環境の遅れも課題ですね。医療機器としての生成AIの利用がまだ認められていないことも、技術革新のスピードを鈍らせていると感じます。画像解析のAIは承認例がありますが、生成AIは【「安全性が担保されていない」】→【評価指針や承認実績が十分に確立していない】という理由で、医療機器としての使用が許可されていません。
千頭: このような規制構造や治験コストの高さそのものが、結果としてスタートアップにとっての大きな参入障壁になっています。一方で、先行して取り組む企業には、治験データや開発ノウハウが蓄積されていく構造でもあります。
大企業との連携とデータの優位性が鍵となる知財戦略
鮫島: 巨額の治験費用や規制の壁を乗り越え、事業を成功させるために、どのような戦略を考えていますか。
千頭:資金調達の面でも、事業展開の面でも、事業会社との連携が不可欠だと考えています。現在、大手製薬会社と診断用アプリの共同開発を進めていますが、今後は製薬会社だけでなく、サプリメントメーカーなど、他の分野の企業とも連携を模索していきたいと考えています。
鮫島: 連携を進めるにあたり、貴社のコアコンピタンスはどんな点でしょうか。
千頭:弊社は2022年から兵庫県立大学を共同で研究開発しており、精神疾患領域、特にCBTや心理領域における質の高い膨大な研究データを持っている点が強みです。
鮫島: 治療用アプリの開発で培った豊富な研究データに加え、長年の運用で蓄積されたプロトコルやノウハウ自体が、他社には容易に模倣できない競争優位性になっていますね。特許だけでなく、こうした非特許の知的資産も含めた戦略が重要だと感じます。
千頭:国内での特許はすでに申請済みですが、海外展開を視野に入れて国際特許の出願も準備を進めたいと思います。
鮫島:日本の環境面での課題を乗り越え、メンタルヘルスのパラダイムを変える貴社の挑戦に引き続き期待しています。本日はありがとうございました。
―「THE INDEPENDENTS」2026年1月号 P.12より
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<話し手> emol株式会社 代表取締役CEO 千頭 沙織 氏 (→ イベント登壇情報) 生年月日:1990年6月13日
出身高校:大阪府立今宮高等学校 2014年に株式会社エアゼを創業、webやアプリの企画・デザイン・開発の業務に携わる。201 8 年にA Iとチャットで会話をしながらメンタルケアをするアプリ『emol』をリリースし、2019年にemol株式会社を創業。 emol株式会社
設 立:2019年3月18日 所在地:東京都豊島区東池袋3-21-18 第一笠原ビル303
資本金:99,990千円
事業内容:メンタルセルフケア/治療アプリの開発 |
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<聞き手> 弁護士法人内田・鮫島法律事務所 弁護士 鮫島 正洋 氏 1963年1月8日生。神奈川県立横浜翠嵐高校卒業。 1985年3月東京工業大学金属工学科卒業。 1985年4月藤倉電線(株)(現・フジクラ)入社〜電線材料の開発等に従事。 1991年11月弁理士試験合格。1992年3月日本アイ・ビー・エム(株)〜知的財産マネジメントに従事。 1996年11月司法試験合格。1999年4月弁護士登録(51期)。 2004年7月内田・鮫島法律事務所開設〜現在に至る。 |

