<イベントレポート>

2025年8月1日 北海道インデペンデンツ
@ 北海道大学エンレイソウ
+ Zoom ウェビナー配信

■ イベント詳細 https://www.independents.jp/event/769

 

<特別セッション>

(パネリスト)
北海道大学 産学・地域協働推進機構
スタートアップ創出本部 本部長
小野 裕之 氏
  STARTUP HOKKAIDO実行委員会 事務局
豊田 睦雄 氏
北海道大学 産学・地域協働推進機構 スタートアップ創出本部 本部長 小野 裕之 氏   STARTUP HOKKAIDO実行委員会 事務局 豊田 睦雄 氏

■ オール北海道で推進する「STARTUP HOKKAIDO」の挑戦

豊田:ここ5、6年で北海道のスタートアップを取り巻く環境は劇的に変化しました。2019年に札幌市が「STARTUP CITY SAPPORO」を立ち上げたことを皮切りに、国の拠点都市選定、経済産業局による「J-Startup HOKKAIDO」の開始、北海道大学の「HSFC」設立、ファンド組成、そして北海道庁の本格参画と、プレイヤーが急速に拡充してきました。これらの動きを統合し、より効率的に連携するため、2023年7月に「STARTUP HOKKAIDO」が発足しました。札幌市、北海道、北海道経済産業局の3行政に加え、北海道大学、そして私自身が所属するD2 GARAGEのような民間メンバーが参画するオール北海道の推進体制です。

 今年の6月には、内閣府のスタートアップ・エコシステム拠点都市において、これまでの推進拠点都市から「グローバル拠点都市」へとステップアップしました。「宇宙」「一次産業・食」「環境・エネルギー」といった北海道の強みを軸に、GXとAIで世界から人材と投資を呼び込むことがミッションです。従来のスタートアップ数や資金調達額、地域におけるイノベーション創出数に加え、「グローバル規模でビジネスを行うスタートアップの割合」も新たなKPIとして設定しています。

 現在、道内では約150社のスタートアップが活躍しており 、資金調達件数・額ともに伸びを見せています。東洋経済新報社の「すごいベンチャー100」に北海道の企業が過去最多の6社選出されるなど、全国的な注目度も高まっています。また、アクセラレータープログラムの実施や、道内自治体の課題をスタートアップと解決するオープンイノベーションプログラムも6年目を迎えました。

■ 大学が牽引するディープテック創出と人材育成

小野:北海道大学にスタートアップ創出本部が設立されてからの2年間で大学発ベンチャーの数は劇的に増加し、経済産業省の調査では全国12位の147社となりました。まずは全国のトップランナーとして認知されなければ、人やお金は集まりません。そのための基盤がようやく整ってきた段階です。

 私たちの活動の中核には「HSFC(エイチフォース)」というプラットフォームがあります。これは、道内の21大学・4高専・1専修学校が加盟する、大学等発スタートアップの育成を目的とした広域連携ネットワークです。北海道大学が主幹機関となり、STARTUP HOKKAIDOをはじめとする産学官金連携で活動を推進しています。

 大学の最も重要な役割は、研究シーズを事業化へと繋げることです。「GAPファンド」と呼ばれる国の研究成果の実用化・事業化のための資金を活用し、知財戦略・事業戦略の策定、経営人材のマッチング、そしてVCとの接続までを一気通貫で支援します。北洋銀行グループの北海道共創パートナーズ と共同で実施する「NEXUS:S」などのプログラムでは、研究者と経営者候補がチームを組んで事業計画を練り上げる実践的な支援を展開しています。こうした取り組みの結果、HSFC発のベンチャー企業数は過去2年間で76%増加し、全国平均の33%を大きく上回る成長率を達成しました。また、アントレプレナーシップ教育にも力を入れており、年間1万人以上の学生・生徒が関連プログラムに触れる機会を設けています。

■ 北海道エコシステムが直面する課題と未来への一手

小野:ここまで両者の取り組みをご紹介しましたが、豊田さんから見て、北海道のスタートアップ・エコシステムが抱える最大の課題は何だとお考えですか。

豊田:やはり人材です。資金やサービスは、東京などからマッチングイベントを通じて提供いただくことが可能になってきましたが、実際に事業を推進する経営人材や、我々のようなエコシステムを裏側で支える支援人材がまだ不足しているのが現状です。これまではスタートアップ自身への支援に注力してきましたが、今後はこの支援者側のリソースをどう厚くしていくかという点も課題だと認識しています。

小野:大学としても人材の問題は非常に深刻です。北海道大学は学生の7割が道外出身者ですが、特に理系の学生に限定すると、卒業生の9割が北海道を離れてしまいます。この構造を変えるためには、大学が起点となって道内に魅力的な産業と、若者が挑戦したいと思える雇用を創出することが不可欠だと強く感じています。
北海道インデペンデンツ 特別セッション 小野様・豊田様

■  未来を拓く「アルムナイネットワーク」構想

小野:人材課題に対する我々の新たな一手として、今年から「アルムナイネットワーク」の構築を始めました。ここで言う「アルムナイ」とは、北海道の産業発展に興味・関心を持つ、北海道にゆかりのある方々すべてが対象です。首都圏や関西でイベントを開催すると、驚くほど多くの北海道関係者が集まります。

 このネットワークを通じて、北海道へのUターン・Iターンを考えている方はもちろん、現在の居住地からリモートや兼業で道内企業を支援したい方まで、多様な形で関わっていただける仲間を募っています。道内の人材だけで完結するのではなく、道外の力も積極的に巻き込み、北海道の新しい産業創出を加速させていきたいと考えています。

北海道インデペンデンツ 第一部特別セッションの様子

※「THE INDEPENDENTS」2025年9月号 P.6 より
※ イベント開催時点での情報です