<イベントレポート>
2025年7月18日 大阪インデペンデンツ
@ QUINTBRIDGE
+ Zoom ウェビナー配信
■ イベント詳細 https://www.independents.jp/event/767
<特別セッション> |
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(パネリスト)![]() |
株式会社ペイフォワード |
1972年大阪府生まれ。 1996年神戸大学経営学部卒業後、日本電信電話株会社に入社。その後は複数法人を設立し、2度のバイアウト、1度のIPOを経験。 エンジェル投資では7社のIPO実績。 大阪府のベンチャー支援政策『Booming!』『RISING!』では総合プロデューサーとして支援内容を企画、運営。 現在は自らの会社も含め、7社の取締役を務める。 |
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インデペンデンツクラブ 松本 直人 氏 |
1980年3月23日生まれ。 2002年フューチャーベンチャーキャピタル(株)入社。 神戸事務所長、取締役西日本投資部長を経て、2016年1月同社代表取締役社長に就任。 2022年7月(株)ABAKAM設立、代表取締役就任(現任)。 2023年3月(株)Kips取締役就任(2024年8月退任)。 (株)神戸大学キャピタル取締役、(株)ココペリ社外取締役、(株)スマートバリュー社外取締役、(株)フィル・カンパニー社外取締役、(株)デジアラホールディングス社外取締役 兼任。 2024年9月インデペンデンツクラブ代表理事就任。 |
■ 万博を通じた学生起業家の世界観
松本:万博における取り組みについてお聞かせください。
谷井: 6月22日、関西万博の会場内にてEO OOSAKA主催の「GSEA 世界学生起業家アワード 世界大会ファイナル エキシビジョン」を開催しました。これは、アメリカ、南アフリカ、ベルギー、インドなど、6カ国から10名の学生起業家が自身の事業アイデアを英語でピッチするもので、次世代のアントレプレナーシップを体感してもらうイベントです。あわせて中高生・大学生向けに起業マインドを育む場としても機能しました。
今の学生たちは、我々の時代とはまったく違うスケールで物事を捉えています。我々が25歳で起業した頃は「地域から始める」感覚が強かったのですが、今は起業当初から世界を意識して動いています。10年後には、世界市場を前提とした起業が当たり前になるでしょう。
松本: 言語の壁も低くなってきていますね。
谷井: SNSとリアルタイム翻訳の普及により、世界中の情報に子どもたちが即座にアクセスできるようになりました。結果として、自分のアイデアがグローバルにどう受け入れられるかを自然に想定できるようになっているのです。これまで日本語が“市場の守り”となっていた側面もありましたが、今後は国際競争の波がより直接的に押し寄せてくるでしょう。
■ 関西スタートアップエコシステムの変化と投資環境
松本: 関西のスタートアップ環境は、どのように変化していますか?
谷井: 万博以前の10~15年で、関西のスタートアップエコシステムは確実に成熟しました。QUINTBRIDGEのようなイノベーション拠点の整備、官民連携による制度設計、エンジェル投資家の層の厚み、シード期に対応するVCの増加など、起業に挑戦しやすい環境が整いつつあります。
松本: 投資家の視点から見た変化は?
谷井: 私には20代起業家からの投資案件が極端に減っている印象がありますが、実際には20代起業家の数自体は増えています。彼らは資金調達の相手として、同世代や少し上の世代のエンジェル投資家を選ぶ傾向が強くなっています。
松本: 谷井さんが代表を務めるペイフォワード社の投資スタンスについて教えてください。
谷井: 私は、他の投資家が敬遠しがちな“評価されにくい企業”にあえて投資しています。高リターンが見込まれる企業には多くのVCが群がるため私が出る幕はありません。一方で、良いプロダクトを持ちながら資本市場で過小評価されている企業に対し、経営支援や人材採用、PR、資金調達などを総合的に支援し、上場まで伴走するのが私の役割だと考えています。
■ グローバル競争を見据えた領域選定と関西の可能性
松本: 万博後、関西のスタートアップシーンはどこへ向かうべきでしょうか?
谷井: 万博は、関西が“世界市場”を意識するきっかけになります。グローバルに通用するスタートアップを目指すには、言語に依存しない領域、たとえば素材開発や食品といったスペック勝負の分野が鍵になると思います。
松本: ITよりも素材や実体経済に近い領域ですね。
谷井: そうです。言語や文化に左右されにくく、純粋に機能や品質で勝負できる分野は、日本発でも十分に世界と戦えます。とはいえ、「グローバル展開ありき」ではなく、自分が心から情熱を注げるテーマであることが重要です。国内市場だけでも成功できるビジネスはありますし、大切なのは“世界観”を持つことです。
松本: 万博の意義を改めてどう捉えていますか?
谷井: 今回の万博は、企業や起業家の“思考の前提”が国内から世界へと移行するトランジションのタイミングです。この変化はスタートアップだけでなく、上場企業にも共通しています。
松本: グローバル化における日本企業の課題は何でしょうか?
谷井: 典型例がメルカリのアメリカ展開です。日本市場に最適化したモデルをそのまま海外に持ち込むのでは、うまくいかない。一方、セールスフォースのように、グローバルで共通のクラウドサービスを展開する“統一戦略”もあります。日本企業は国ごとにローカライズする傾向が強いですが、本当にグローバルで戦うには、世界基準のサービス設計が必要です。
松本: 貴重なお話をありがとうございました。関西から世界へという視座が、多くの起業家や関係者にとって大きな示唆になると思います。
※「THE INDEPENDENTS」2025年9月号 P.4 より
※ イベント開催時点での情報です