未利用熱でエネルギー革命を拓く「廃熱エンジン」

株式会社馬渕工業所
代表取締役 小野 寿光 氏

 

未利用熱を価値に変える挑戦

 日本の産業界では、大量の未利用熱が排出されていますが、その7割を占める200℃未満の廃熱だけで年間約320万テラジュール(TJ)も捨てられていることがNEDOの調査で判明しています。これは日本の全家庭の風呂12年分に相当する膨大なエネルギーです。これまでその未利用熱を有効活用できる装置はほとんど存在せず、特に小規模で分散した熱源への対応は困難でした。

 こうした現状を打破すべく、馬渕工業所が開発したのが、ORC(オーガニック・ランキンサイクル)技術をベースにした「廃熱エンジン」です。これは90℃に満たない低温でも安定して発電が可能な画期的なシステムで、従来の大型装置とは一線を画す“小型・自立・高効率”なエネルギー変換装置です。
馬淵工業所の廃熱エンジン

■ 独自のスクロール膨張機と精緻な制御技術

 廃熱エンジンのコアとなるのは、独自開発した非対称スクロール型膨張機です。従来型と比べ、より低温の熱源から効率よくエネルギーを回収でき、世界最高水準の性能を実現しました。さらに、「ランキンサイクル制御」「トルク制御」「蓄電制御」の三つの精緻な制御技術を組み合わせることで、安定的かつ高効率なエネルギー変換を可能としています。

 この技術力は高く評価され、同社は2023年度に創設された「NEDO省エネ技術開発賞・中小スタートアップ賞」や「めぶきビジネスアワード特別賞(宮城県初)」、さらに「日インドネシア・ファストトラック・ピッチ2024」でKOMATSU社最優秀賞を受賞するなど、数々の受賞歴を誇ります。

■ 廃熱×エネルギー×地方創生への応用展開

 この廃熱エンジンは、単なる発電にとどまらず、回転軸の出力を直接動力として活用することで、冷凍機やコンプレッサーなどの高効率駆動も可能です。たとえば、宮城県の実証実験では、廃熱を利用して大型冷蔵庫を0℃に保つことに成功。これは、一般的な電力利用よりも約27%も高効率な冷凍稼働を実現しています。

 また、発電した電気を小型の可搬型蓄電池(LiB)に蓄え、パーソナルモビリティやドローン、配送車両などの充電ステーションとして地域に供給することも構想されています。イベント用の仮設電源や災害時の非常用電源としても活用でき、地域インフラの強靱化にも寄与します。

■ 圧倒的市場ポテンシャルと事業展開

 試算によれば、200℃未満の未利用熱のわずか2%にこの技術を適用するだけで、26,700台、3,200億~4,000億円規模の市場が創出されます。すでに同社には150社を超える企業からの問い合わせがあり、社会実装フェーズは計画を前倒しで進行中です。長野県松本市の産業廃棄物処理業者と連携し、実際の排熱を活用したデモ運用も展開されています。

 馬渕工業所が目指すのは、単なるエネルギー装置の提供にとどまらず、企業の環境経営やレジリエンス強化、そして地方創生に貢献する持続可能なエネルギー・プラットフォームの構築です。

 資金調達面では2025年5月に株式投資型クラウドファンディングFUNDINNOにて89,100,000円を調達(新株予約権)しました。今後はさらなる資金調達と量産体制の構築を進め、日本国内はもちろん、東南アジアを中心とした海外市場も見据えています。

 

 
コメンテーターより
株式会社AGSコンサルティング 顧問 小原 靖明 氏
 

 管工事業を60年余りにわたり営む貴社が、新規事業として研究開発、製品化し、販売するに至ったことは、同じように歴史があり、地方で頑張る企業に勇気を与えるものです。
特に、資金調達も控え目にしながら、NEDOの評価も受け、産学連携もはかり、誰もがその需要を疑わない「廃熱発電システム」は大きな期待ができます。
今後は、販売段階に入り、販売モデルの確立、在庫資金、先行する営業費用の資金確保等が課題になってくると思われます。そのため大き目な資金調達を想定した資本政策や事業戦略の策定が必要となるでしょう。

株式会社AGSコンサルティング 顧問 小原 靖明 氏



※「The INDEPENDENTS」2025年8月号 - P.11 掲載
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