導電性繊維で未来をつなぐ

エーアイシルク株式会社
代表取締役 岡野 秀生 氏

 

■ 革新の起点——導電性繊維「LEAD SKIN」

 東北大学発スタートアップとして2015年に設立されたエーアイシルクが開発・製造する導電性繊維は、導電性高分子「PEDOT(ポリエチレンジオキシチオフェン)」を繊維の芯まで染み込ませる独自技術により、しなやかさと高い電気伝導性を両立しています。さらに塩分や洗濯による劣化に強く、100回以上の洗濯にも耐えうる高い耐久性を持ちます。この特性が評価され、2020年にはMTG社のEMSスーツ「SIXPAD」に電極素材として採用され、国内で50万着以上が出荷されました。その後、宮城県に量産工場を開設し、安定供給体制の確立により、事業は飛躍的に成長しています。

■ 成長を支える三大マーケット

 現在、「スポーツ・ヘルスケア」「モビリティ」「メディカル」の3領域を重点市場として事業展開を進めています。

① スポーツ・ヘルスケア分野では、HRM(心拍数モニタリング)バンドやEMSトレーニング機器などに対応した電極素材を提供。快適な装着感と高い信号精度が求められる分野で優位性を発揮しています。

②モビリティ分野では、自動運転技術に不可欠なハンドル把持センサーなどの部品向けに導電性素材を提供。2023年には自動運転レベル2以上の車両市場において280億円規模と見込まれ、2030年には670億円規模への拡大も期待されています。

③メディカル分野では、皮膚にやさしく長時間装着が可能な心電図(ECG)パッチやスキンパッドへの応用が進んでいます。2023年時点で4,500億円を超えるECGパッチ市場に向け、医療機器メーカーとの共同開発も進めています。

エーアイシルク株式会社の新規事業展開計画

 

■ 単なる素材から、価値あるシステムとしてのブランド戦略を展開

 今後は応用製品であるセンサー部品、さらにはソフトウェアや解析機能を組み合わせたシステム全体の提供へと拡大を計画しています。「LEAD SKIN」という自社ブランドのもと、ライセンス提供も視野に入れたビジネスモデルを構築しています。素材ブランドとしての地位を確立し、製品に加え、ブランド価値による差別化も図ります。高収益ビジネスへの転換として、ECGパッチモジュールやタッチセンサーといった高付加価値製品の開発も本格化しており、持続可能な成長と2030年度のIPOを実現しようとしています。

 

 
コメンテーターより
弁護士法人 内田・鮫島法律事務所 弁護士 藤枝 典明 氏
 

 貴社は、導電性高分子のコーティング技術に係る基本特許を保有しているとのことで、今後は、モビリティ、メディカル、スポーツ等の多分野において、導電性繊維を応用したウェアラブル機器等の製品化が見込まれます。様々な分野での応用が利く分野となるので、周辺技術に関連する製品の共同開発や関連特許の取得も含め、貴社が関連技術の発展に欠かせない存在になることに期待しています。

弁護士法人 内田・鮫島法律事務所 弁護士 藤枝 典明 氏



※「The INDEPENDENTS」2025年8月号 - P.9 掲載
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