1 はじめに

 今回のコラムでは、特許庁の審査の運用に基づいて(「AI関連技術に関する事例について」(2024年・特許庁)、「AI関連技術に関する事例の追加について」(2024年3月13日・特許庁審査第一部調整課審査基準室))、プロンプト(※1)生成について紹介します。以下の設例を紹介し、プロンプト作成の工夫においても特許が取得可能か、について、考えていきます。
 

 

2 設例(以下の特許出願は、特許となるでしょうか。)(※2)

(1) 発明の概要
 この発明は、プロンプトには文字制限が設けられている場合があり、このような場合にプロンプト生成に有効な参考情報を質問文に対して追加し、所定の制限文字数でプロンプト用文章を生成することを目的としています。
 請求項1に記載の発明により、制限文字数内で、入力された質問文に対して有効な付加文章を参考情報として加えたプロンプトを生成することができ、請求項2に記載の発明により、所定の制限文字数内で、質問文と関連性が高く参考情報として適した付加文章を付加したプロンプトを生成することができ、より信頼性が高く適切な回答文を得るという効果を奏します。


(2) 特許明細書等の出願書類

 発明の名称:大規模言語モデルに入力するためのプロンプト用文章生成方法

 特許請求の範囲
【請求項1】(進歩性なし)
 入力された質問文に対して参考情報を付加することにより、大規模言語モデルに入力するためのプロンプトをコンピュータが生成するプロンプト用文章生成方法であって、
 前記大規模言語モデルは入力できるプロンプトの文字数の上限である制限文字数が設定されており、質問文を含むプロンプトを入力すると、前記質問文に関する回答文を出力する大規模言語モデルであり、
 前記コンピュータが、
 前記入力された質問文をもとに、当該質問文の文字数と合わせた合計文字数が前記制限文字数以下の文字数となるように、前記質問文に関連した付加文章を生成する付加文章生成ステップと、
 前記入力された質問文に対し、前記付加文章生成ステップにより生成された前記付加文章を前記参考情報として追加することによって前記プロンプトを生成するプロンプト生成ステップと、
 を実行することを特徴とするプロンプト用文章生成方法。

【請求項2】(進歩性あり)
 前記付加文章生成ステップは、前記入力された質問文をもとに、当該質問文に関連した関連文章を複数取得し、取得された複数の前記関連文章から、前記参考情報として適した複数のキーワードを抽出し、前記複数のキーワードを使用して、前記合計文字数が前記制限文字数を超えない前記付加文章を生成するステップであることを特徴とする
 請求項1に記載のプロンプト用文章生成方法。


(3) 技術水準(引用発明、周知技術等)

引用発明1
  
入力された質問文に対して参考情報を付加することにより、大規模言語モデルに入力するためのプロンプトをコンピュータが生成するプロンプト用文章生成方法であって、
 前記大規模言語モデルは、質問文を含むプロンプトを入力すると、前記質問文に関する回答文を出力する大規模言語モデルであり、
 前記コンピュータが、 前記入力された質問文をもとに、前記質問文に関連した付加文章を生成する付加文章生成ステップと、
 前記入力された質問文に対し、前記付加文章生成ステップにより生成された前記付加文章を前記参考情報として追加することによって前記プロンプトを生成するプロンプト生成ステップと、
 を実行することを特徴とするプロンプト用文章生成方法。

(補足説明)
 引用発明1は大規模言語モデルの学習方法に特徴があり、引用文献1において、大規模言語モデルに入力可能な制限文字数が存在する場合の課題については着目されておらず、当該課題を解決するための手段も開示されていない。

技術常識:
 言語処理の技術分野において、情報処理量が過大にならないようにすることは、当業者が通常考慮する自明な課題であり、また、その解決方法として、入力できる文章の上限である制限文字数を設定し、文章が当該制限文字数以上となる場合に、当該制限文字数以上となる部分を破棄することで、実際に入力される文章を制限文字数以下の文字数となるように作成することは出願時における周知技術である。
 


(4) 特許出願の帰趨 (※3)

 上記内容を出願した場合、引用発明1および出願時の周知技術を考慮すると、請求項1にかかる発明は進歩性を有さず特許されません。
 他方、請求項2にかかる発明は、引用発明1とは相違し、付加文章の生成ステップが具体的に特定されており、所定の制限文字数内で、質問文と関連性が高く参考情報として適した文章を付加できる効果が期待できるものであり、進歩性を有し、特許されます。

 

3 本事例から学ぶ留意点

 AI関連発明でも、進歩性の判断は、他の発明と同様であり、引用発明との相違点、および相違点に対する容易想到性により判断されます。本件は、請求項1かかる発明は、特許されませんが、請求項2にかかる発明に記載の程度、技術が具体的に特定されれば、進歩性が認められます。
 AIの使用においては、良質なアプトプットを得るためには、適切なプロンプト生成が必要不可欠になっています。このプロンプト生成の場面においても、引用発明と差別化できれば、特許になりえます。プロンプト生成は、特許取得のニーズも高い分野ですので、実務上、上記留意点を考慮して進めていくことがよいでしょう。

 

<注釈>

(※1) プロンプトとは、AIが応答や生成をするためのユーザーの要求や指示であり、目的となる応答や生成を出力するためにはプロンプトが適切であることが求められます。
(※2) 本文中枠内は、「AI関連技術に関する事例について」(2024年・特許庁)68~69頁から引用、図表は「AI関連技術に関する事例の追加について」(2024年3月13日・特許庁審査第一部調整課審査)15頁から引用。
(※3) 本コラムは、特許出願の帰趨の詳細は、「AI関連技術に関する事例について」(2024年・特許庁)70~71頁参照。
 
以上
 
※「THE INDEPENDENTS」2025年4月号 P.13より
※掲載時点での情報です
 

 
弁護士法人 内田・鮫島法律事務所 弁護士/弁理士 高橋 正憲 氏   弁護士法人 内田・鮫島法律事務所 弁護士/弁理士 高橋 正憲 氏

2004年北海道大学大学院工学研究科量子物理工学専攻修了後、(株)日立製作所入社、知的財産権本部配属。2007年弁理士試験合格。2012年北海道大学法科大学院修了。2013年司法試験合格。2015年1月より現職。

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