青森県のりんご産業が抱える課題に取り組むインパクトスタートアップ

appcycle株式会社 代表取締役 藤巻 圭 氏

■ りんご残渣から合成皮革「RINGO-TEX」を開発

 従来、動物由来や石油由来の材料が中心だった合成皮革市場において、植物由来の材料を新たな選択肢の1つへと提供する事を目指し、青森県のりんご残渣を原料とした環境に優しい合成皮革「RINGO-TEX」を開発しました。糖分の多いりんごを工業製品として加工することは技術的に困難でしたが、独自技術で従来の合成皮革に劣らない高耐久性の素材を実現しています。さらに、CO2排出を従来の10分の1以下に削減できる加工方法の開発にも取り組んでいます。すでに全日空のヘッドレストカバー採用をはじめ、ビートルズコラボのSEIKO時計バンド、TOKIO城島氏プロデュース製品、ライトオン社の青森アイドルとのコラボなど、実績を積み重ねてきました。

リンゴ由来の合成皮革「RINGO-TEX」リンゴ由来の合成皮革「RINGO-TEX」

■ 青森の廃棄りんごから循環型社会を創出するサプライチェーン

 りんごはジュース製造時に全体の30%が残渣となり、年間2万トン以上が焼却処分され、CO2排出や廃棄費用が大きな課題となっています。私どもは原料調達から加工、製品化までを一貫して手掛けるサプライチェーンを構築しています。①原料仕入れ・加工、②大学との開発連携、③原反・製品製造、④プロダクト製造、⑤代理店販売、⑥消費者への販売、⑦りんご生産者への利益還元という循環を形成しています。販売戦略としては、①代理店を通じたBtoB展開、②個人クリエイターやインフルエンサーを活用したBtoC展開、③D2Cブランド構築の3軸で進めています。

RINGO-TEXのサプライチェーンRINGO-TEXのサプライチェーン

■ 青森の地域社会から世界の環境問題への取り組み

 私どもは2022年5月に創業し、2023年には青森県知事から模範となる先駆的な取り組みとして表彰を受け、弘前市とは地域活性化に向けた10分野の包括連携協定を締結しました。また、りんご産業の歴史や技術を伝える小学生向けワークショップの開催など、次世代育成にも注力しています。

 さらに、経産省主催のJ-StarXシリコンバレーコースに選出され、現地でのプレゼンで「アメリカに進出してほしい企業」「アメリカでも成功する企業」の2冠を獲得するなど、国際的な評価も高まっています。今後も、家具、アパレル、雑貨市場を中心に、さらなる事業拡大を図っていきます。また、弘前市の就労継続支援施設と連携し、製品製造を通じた障がい者の新たな雇用創出にも貢献しています。

 
 

コメンテーターより
弁護士法人内田・鮫島法律事務所 弁護士 根岸 秀羽 氏
 

 appcycle様は、りんご産業における課題であった残渣を活用し、植物由来の合成皮革を生産するという技術をお持ちです。特筆すべきは、地元青森の特産品を利用するというストーリー性もさることながら、他の果物にも応用の可能性もあるとのことで、技術の汎用性が期待できる点にあると思われます。今後は、基礎技術の知財を押さえることを目指すほか、国内外の競合との差別化まで見据えた知財戦略をご検討いただければと存じます。

弁護士法人内田・鮫島法律事務所 弁護士 根岸 秀羽 氏



※「The INDEPENDENTS」2025年4月号 - P.9 掲載