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「DEEPなファンを増やしたい」

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【塚原 昇】
1966年 茨城県生まれ
1989年 千葉大学法経学部卒業
1989年 日本合同ファイナンス(株)入社
1993年 (有)アクト21入社
2002年 (有)塚原牧場設立

【株式会社塚原牧場】
設立:2002年6月
資本金:3,220万円
住所:茨城県猿島郡境町2170-1
TEL:0280-81-3729 (代)  http://www.meishanton.com/

―幻の豚“梅山豚(メイシャントン)”
塚原:梅山豚はもともとは日中友好の証としてパンダに続いて中国からプレゼントされた品種です。世界一たくさんの赤ちゃんを産み、人間が食べない水草や山野草などの粗食に耐える品種であるため「21世紀を救う豚」として注目されています。しかし交配がとても難しくほどんどの農家で飼育に失敗してしまいました。今は中国が絶滅危惧品種となる可能性が高いと輸出を抑えたため、日本には農水省と弊社含め100頭前後しかいない希少種です。

―人と同じものを食べるか“安全な豚”
塚原:梅山豚は飼料にも特徴があります。麦かす・芋など、茨城周辺の食品工場から出る食品副産物を弊社独自に配合した飼料を食 べて育っています。もともとは人間が食べられる基準で作られる物なので、栄養価も高く、安全性も非常に高いのです。また、茨城ならではの副産物を組み込むことで「その地域らしさ」も付加されます。

―地産地消で“環境にやさしい豚”
塚原:山奥ではなく、ここ茨城で畜産を営んでいるのには意味があります。そもそも都市周辺の食品工場は欠品を起こさないようすこし余分に商品を作っています。結果、その余剰分は1日に何トンにもなるのです。従来廃棄物として処理されていたそれらを、畜産飼料として再生するのが弊社の「食品資源リサイクルフロー」です。この仕組みを使って効率的に餌を調達し、高い安全性を実現しています。食品メーカー側からしても、産業廃棄物として処分するコストを削減でき、環境貢献にもつながります。

―“幻(まぼろし)感”というブランディング戦略
塚原:「いつもはない、どこにもはない」をコンセプトに、一エリア一業態一店舗という方針で販路を展開、見せない戦略を採っています。例えば、今週は伊勢丹〜店に2頭、来週は三越〜店に2頭など、いつでもあるわけではない目玉商品として販売を分散しています。梅山豚は一頭約10万円で取引させていただいています。普通の豚は一頭約3万円なので、市場価格の3倍以上です。この値段で取引ができるのは、売る相手や場所を吟味し、高くてもその価値を認めて買いたいと言ってくれるファンを対象としてきたからです。高級レストランや一流百貨店、個人会員を中心にご愛顧いただいており、インターネットでの販売もしません。ネットはつまみ食いが多く、ファンになりづらいと考えています。当社では「まぼろし感」や「プレミア感」を打ち出し、ブランド価値が低下しないような販路で展開しています。

―参入障壁を築く商標権戦略
塚原:平成14年に「塚原牧場の梅山豚」として商標権を取得しました。美藤さん(社外取締役)からのアドバイスでまずブランド事務所と契約しました。次に、「梅山豚」の商標申請をしましたが、品種名では商標を取る事ができませんでした。特許事務所の方に相談したところ、「塚原牧場の梅山豚」という商標なら取得できることがわかりました。商標マークはブランド事務所にデザインを依頼しました。それが梅山豚と一目で認識できるものである必要があったからです。「弊社の商標マーク=梅山豚」と認知されれば、他で梅山豚を扱おうとする農家にとって参入障壁になります。始めこそ疑問はありましたが、商標を知的財産と捉えることは意味があったと思います。結果、「塚原牧場の梅山豚」としてブランド化していく実感を強く感じています。

―ベンチャーキャピタルで学んだ経営者視点
塚原:もともと父親が豚の飼育から全国加工販売の会社を営んでいました。その姿を見て私も自分で商売がしたいと思い、就職活動は社長と面談する機会の多い企業を探しました。卒業後は日本合同ファイナンス(現JAFCO)に入社、投資部に配属されました。興味のあった流通分野の企業を中心に外交していましたね。マーケティングから経営者の想い、決断の仕方などすごく参考になりました。5年目になって自分でなにか始めたいと思い退社しました。父親の会社を継ぐつもりはありませんでしたので、その子会社(株)ACT21をスピンアウトさせて社長の職に就きました。現在は(株)ACT21のミート事業部門は「(株)塚原牧場」として会社化し、(株)ACT21はリサイクル飼料事業部門として分離しています。
―大学院で食品リサイクルに活路を見出す
塚原:引き継いだ当初は梅山豚どころか牧場経営がなにかもわからない状態でした。しかも資金を次から次へと注ぎ込んで赤字が膨らむばかりでした。この状況を打開しブレークスルーするために筑波大学大学院に進学しました。農業の現状に代表取締役た頃から、とうもろこしなどの人間の食糧が豚の飼料と取り合いになっていることに疑問を感じていました。それらを豚の飼料のために大量に輸入する一方で、アフリカの子供は気がに悩まされています。そういった問題意識から、大学院では「バイプロ」という食品製造副産物について研究しました。本来畜産はそういった人間が必要のなくなったものを豚に与えて営まれていました。大量生産の現代社会でも、食品の廃棄物や副産物を有効活用することが畜産の役割だと思います。修士論文は麦茶のかすを豚の飼料にするというテーマで書きました。この研究を基に「食品資源リサイクルフロー」を考案しました。

―独自の資料配合と飼育方法で品質向上
塚原:梅山豚自体が普通の品種ではないもので、エサも飼育方法も圧倒的に違うものにしたいと考えました。少しずつ資金が好転したところで、工場を建て様々な食品副産物を調達できるようになり飼育配合を研究しました。最初はとうもろこしの餌にパンを混ぜる程度でしたが、とうもろこしを全部やめて作り変えていきました。飼料原料となるいろいろな食品添加物を5%から10%の割合で変えていき、できた豚肉を食べてみて、また変えて…試行錯誤を10年くらい繰り返しました。今は麦茶の搾りかすをメインに、10種類ほどを混ぜて配合しています。品種自体の特徴である暑い脂は減らすことができないので、香が良く、軽くて食べやすい脂になるよう餌を調整しています。飼育方法に関しても、放牧をするなどして工夫してきました。普通の豚は6か月ですが、梅山豚は9か月かけて育てています。豚は育てる時間が長いと細胞が強くなり、焼いた時にうまみや水分が逃げるのを防いでくれます。今までのセオリーと全く正反対の方法です。資料配合と飼育方法を試行錯誤で研究した結果、品質は格段に上がったと思います。

―規格外でやむをえず、市場「外」の販路開拓
塚原:梅山豚は脂肪のサシがきめ細やかで味は抜群です。豚肉の格付け協会が指定する規格は、主に形(カタチ)で上物・中物・並物と評価されます。しかし梅山豚は脂が厚すぎるため、市場取引では最低ランクの「等外」で格付けされてしまうのです。そこで味を評価してくれる高級レストランや百貨店1件ずつ開拓して直接販売するようにしました。当時そうやって市場外ルートで販売する生産者は珍しかったですね。最初に使ってくれたのは有名なシェフである脇屋友詞さん(TURANDOT)です。それが大きな信用力となりました。



※全文は「THE INDEPENDENTS」2008年12月号にてご覧いただけます