【コラム】ベンチャーコミュニティを巡って
第10回 VCF出資者としての年金基金
米国のベンチャーキャピタル投資の発展史を眺めてみると、1981年にERISA(従業員退職年金保障法)による年金基金の運用規制緩和で、年金基金のベンチャーキャピタル・ファンド(VCF)への投資が解禁されたことの意味は大きい。ERISAの規制緩和は、当時のキャピタルゲイン課税の引下げやPCなど新しい技術革新の進展と相俟って、1980年代以降の米国VCFの規模拡大に貢献し、結果としてVC投資の意義への社会的認識も大いに進んだ。同時に、その後の米国VCFの主たる出資者は年金基金となり、最近でも米国VCFの約半分は年金基金が出資している。
勿論VC投資のリスクは高く、分散投資の考え方に基づいて年金基金のほんの数%がVCFに向けられているに過ぎないが、年金基金の規模は大きく、結果として米国VCFの約半分は年金基金が出資する形になっているわけである。
翻って日本のVCFへの出資者構成を見ると、特段の規制があるわけではないのに年金基金はVCFにほとんど投資を行っていない(財団法人ベンチャーエンタープライズセンター(VEC)の2007年調査によると、VCFの年金基金からの出資比率は1%)。最近ようやく年金基金からの出資を拡大すべく、ベンチャーキャピタルサイドからの働きかけが行われ、一部の年金基金が出資してはいるが依然金額は小さい。日本の場合、主たるVCFの出資者は、銀行や証券、損保などの広義の金融機関と事業会社となっている。
今後の日本のVC投資の拡大にあたって、年金基金からのVCFへの出資拡大は欠かせない問題といってよい。では、そのために何をすべきなのか。
今まで年金基金がVCFにほとんど出資してこなかった理由は幾つか考えられる。一つはVCFの運用方法の問題。例えば、ベンチャー企業への投資にあたっての投資契約の不備や時間を置かず出資者の異なる並行的なVCFの組成、さらには出資者への情報開示のあり方など、ファンド出資者の立場からすると運用を託すに足るやり方が取られていなかったことが挙げられよう。
ただし、そうした問題は2000年以降かなり改善されたようにも思う。残された大きな問題は、VCFの運用成績の開示が不十分で、VCF運用のベンチマークが明確でない点が挙げられる。日本のVCFの運用成績が芳しくないという問題も勿論あるが、それ以上にベンチマークが不明確であることは、機関投資家にとってVCFを運用対象とする上で問題といってよいであろう。
VCFの運用成績を開示すべくVECによるベンチャーキャピタル会社へのアンケート調査は行われているが回答数が少ない。運用成績が悪いVCFの情報開示を躊躇う気持ちは分からないではないが、その結果日本のVCFに関して信頼するに足るデータが集められず、そのためにVCFへの出資者を増やせない状況は如何にもまずい。個別VC各社の意識改革を強く促したい。

