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ベンチャーコミュニティを巡って第167回

2022-11-15 公開
國學院大学
名誉教授 秦 信行

インデペンデンツクラブ代表理事
秦 信行 氏

早稲田大学政経学部卒業。同大学院修士課程修了(経済学修士)。野村総合研究所にて17年間証券アナリスト、インベストメントバンキング業務等に従事。1991年JAFCO に出向、審査部長、海外審査部長を歴任。1994年國學院大学に移り、現在同大学名誉教授。1999年から約2年間スタンフォード大学客員研究員。日本ベンチャー学会理事であり、日本ベンチャーキャピタル協会設立にも中心的に尽力。2019年7月よりインデペンデンツクラブ代表理事に就任。

ベンチャーコミュニティを巡って第167回


大学発ベンチャー・エコシステム


 大学発ベンチャーは、2021年度の経済産業省調査では前年比401社増加し3306社となっており、2001年度に制定された「大学発ベンチャー1000社計画」から見ると、はるかに超える社数となっている。大学発ベンチャーについては、必ずしも大学の研究成果の事業化を目指すベンチャーに限ったものではないが、その数においては技術系ベンチャーが多いと思われ、その意味ではその数の増加は日本にとって喜ばしい動きだと言って良いように思う。
 とはいえ、大学発ベンチャーの質の面での評価はどうであろうか。筆者は大学発ベンチャー全体の評価を十分に行うだけの知見はないが、大学発ベンチャーの経営者やマネジメントの問題については筆者も時々聞くことがあり、質的には必ずしも高く評価はできないようだ。
 それでは、大学発ベンチャーのエコシステム(筆者は、エコシステムとはベンチャーを継続的・持続的に生み出し、それらを育成しスケールさせる循環型のビジネス環境のことだと理解している)についてはどのような状況なのであろうか。この点に関しては、原田誠司長岡大学名誉教授を代表者とした6名の研究者が2019年から2020年にかけて実施された、日本ベンチャー学会の「大学発ベンチャー・エコシステム形成に関する調査研究プロジェクト」が参考になる。
 原田氏等はこの調査研究において、大学発ベンチャー・エコシステムを7つの機能、すなわち①産学連携推進、②(基礎)研究、③知財管理・活用、④起業シーズ開発・VC、⑤起業・VC,⑥起業家教育、⑦資金調達・ネットワーク、に整理された上で、大学発ベンチャー輩出数で全体の約50%を占める上位の10大学(東大、京大、筑波大、阪大、東北大、九大、早稲田、慶応、名大、東工大)について実地調査を実施されている。
 まず①の産学連携推進に関しては10大学とも、「産学連携本部」を設置されて活動されているようだ。②の(基礎)研究については、国・独立行政法人からの受託研究が大半を占め、民間からの受託が少ない点を指摘されている。③の知財管理・活用については、特許収入が10校で30億円程度とグローバルに見て少ない点を問題視されている。次の④起業シーズ開発・VCに関しては阪大のGAPファンドに助成する「起業シーズ育成グラント」などを評価されている。GAPファンドは技術の実用性を検証するための資金で、既に幾つかの大学で取り入れられている。続く⑤起業・VCに関しては資金調達と経営人材の確保が問題だとされている。⑥の起業家教育については、各大学で教育プログラムが既に展開されている。最後の⑦資金調達・ネットワークについては、既に国の資金により4国立大学法人で100%出資のVCが作られており、残りの大学も民間との共同でVCを作られている。
 以上、原田氏ほか6名の研究者による調査研究プロジェクトに見るように、研究成果に投資する仕組みとしての大学発ベンチャー・エコシステムが、大学財政に貢献できるところまでには至っていないものの、かなり整備されて来ているように思われる。とはいえ問題は、原田氏達も指摘されているように、その大学発ベンチャーのエコシステムが、東大のような先行事例が出て来ているとはいえ、その他の大学においては、それぞれが立地する地域のエコシステムに依然波及・拡大していない点であろう。その問題解決が次の課題で何を施策として打ち出すべきか考えなければならない。

※「THE INDEPENDENTS」2022年11月号 掲載
※冊子掲載時点での情報です

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