3D空間計測技術で社会インフラの維持・管理に貢献する
鮫島:産業革新機構グループのJIC VGIより10億円の出資を受けるなど、貴社の3D計測技術は建設業界を超え社会インフラの維持管理への貢献が期待されています。
中庭:橋梁や建物に出来たコンクリートのひび割れ調査は、足場や高所作業車からの近接目視点検が基本でした。弊社が開発した光波測量機にクラックスケールを内蔵したひび割れ計測システム『KUMONOS(クモノス)」』は、対象物に近づくことなく、例えば100m先の0.2mmのひび割れも、早く、正確に、かつ安全に計測しデジタル化することができます。
鮫島:2006年に発売当時は国土交通省の規制ルールに抵触したため、海外に活路を見出しました。
中庭:画期的な発明として2008年土木学会「技術開発賞」、2012年文部科学大臣表彰で「科学技術賞(開発部門)」・2013年にはものづくり日本大賞も受賞しました。しかし、「調査は近接目視で」という国土交通省の方針があり、国内ではなかなか普及しませんでした。そこで海外進出を考えますが、当時は先立つものがありませんでした。その時JICA(国際協力機構)ODA案件化調査や中小機構のFS 調査などがあることを知り、応募し採択されたのが、海外進出のきっかけとなりました。現在では28か国で(大小ありますが)ビジネスを展開することができました。
なかでも、タイでの、ラマ8世橋のひび割れ計測業務は高く評価され、Japanコンストラクション国際賞(国交省)を受賞、SDGsの国際ビジネス事例(経産省)などに選ばれるなど海外での活躍が国内でも注目されるようになりました。
すると2019年にはデジタル化の波が到来し、「近接目視」の条件が緩和され、KUMONOSの活躍の機会が広がりました。そして2022年には「インフラ点検の目視規制廃止」が検討され改定されました。
道路橋やトンネルなどの定期点検に新技術が活用されることになり国内での需要も一気に広がりました。
鮫島:中庭社長は知財取得について戦略的に取り組まれてこられた印象です。KUMONOS発売当時は販売台数も決して多くなかった状況で、知財取得にコストをかけるモチベーションはどこから湧いてきたのでしょうか。
中庭:1998年に弊社の最初の発明商品であるトンネルマルチ測量システム「KANON」を開発・販売したのですがその時の苦い経験が原動力です。「KANON」は画期的な発明品で初年度に約1000万円システムが32台も売れました。しかし、特許を取得していなかったため、直ぐにこの技術が他社にも流失し、あっと言う間に他社のシステムが世界の市場を席捲してしまいました。弊社はあえなく撤退することになるのですが、私は特許を出していなかったことを悔やみ、これを教訓として特許に拘るようになりました。現在特許は国内76件(現保有46件。うち海外は11件)取得し、二度と同じ轍を踏まない覚悟です。
鮫島:KUMONOSはもう発売して16年たち、まもなく特許が切れます。何か対策を考えておられますか。
中庭:製品としてのKUMONOSはあと4年となります。しかし計測方法としての特許を2021年に出願しています。写真を組み合わせた「シン・KUMONOS」は国交省の技術カタログに掲載して頂き、市場を優位に展開しています。他社がKUMONOSを模倣する前に関連特許で市場を抑える戦略です。
鮫島:もうひとつの事業の柱「3Dレーザースキャナ」では、1秒間に100万点が計測できます。施設、スタジアム、歴史的構造物、海外文化財の測量を通じてノウハウを蓄積されています。
中庭:今まで蓄積した3Dデータは2500件を超えます。そして2025年に開催される大阪関西万博では約160のパビリオンを計測し、バーチャル万博の実現に寄与したいと考えています。そして、大阪関西万国博覧会や今まで蓄積し貴重なデータを弊社の3Dクラウドデータバンクをプラットホームとして1000年後の未来まで伝えたいと考えています。
―「THE INDEPENDENTS」2022年9月号 P10より
※冊子掲載時点での情報です