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令和時代のスタートアップ・エコシステム

2020-09-10 公開


令和時代のスタートアップ・エコシステム


<Vol.6>川崎市のスタートアップ支援

玉井 一彦 氏(川崎市 経済労働局 イノベーション推進室 室長)

福田 伸生 氏(バイオ・サイト・キャピタル(株) 専務取締役)


このコラムは、現在全国で数多く生まれているスタートアップ支援組織や支援団体を対象に、その組織や団体が生まれた背景や経緯、支援内容の特色、組織としての今後の方向性、組織からみた日本のベンチャー・エコシステムの現状、問題点や課題などを、主として組織・団体のトップへのインタビューを通じて紹介するものである。今回は神奈川県川崎市という自治体のスタートアップ支援状況について取り上げる。

8月3日にオンラインで開催された「インデペンデンツクラブ月例会」にて、「川崎市のスタートアップ支援」をテーマとするパネルディスカッションを行い、川崎市経済労働局イノベーション推進室室長の玉井一彦氏と民間業者として川崎市のスタートアップ支援事業をサポートしておられるバイオ・サイト・キャピタル専務取締役インキュベーションビジネス部長の福田伸生氏に登壇いただいた。加えて、川崎市・川崎市産業振興財団・NEDOが運営する「Kawasaki-NEDO Innovation Center(K-NIC)」のアドバイザリーボードを務める弁護士法人内田・鮫島法律事務所代表弁護士の鮫島正洋氏にもコメントいただいた。

秦:まず玉井さんから川崎市のスタートアップ支援事業の概要をお話しいただきたい。


玉井:もともと川崎市は重厚長大型企業の生産現場の街として知られているが、最近は東芝やNECをはじめとして、研究施設中心の街に変わってきている。中でも、新川崎駅は横浜駅から10分弱、品川駅から10分強、東京や渋谷から20分程度と都心に近い位置にあり、技術者を集めやすい場所であったためだと思う。ここは元々国鉄の操車場であったが、2000年以降産学連携による科学技術・産業を創造する研究開発拠点「新川崎・創造のもり」として生まれ変わった。
 まず、2000年に慶應義塾大学「新川崎タウンキャンパス」が作られたのに続いて、2003年「かわさき新産業創造センターKBIC本館」、2012年「ナノ・マイクロ産学官共同研究施設NANOBIC」、そして2019年「産学交流・研究開発施設AIRBIC」、以上3つのインキュベーション施設ができた。合計で105室・7000㎡超になる3施設を、「かわさき新産業創造センター指定管理者」の川崎市産業振興財団やバイオ・サイト・キャピタルなどが運営管理をしており、入居率は8月1日時点で約90%になっている。
 川崎市は、市内高津区にあった池貝鉄工工場跡地に1989年に竣工した「かながわサイエンスパーク(KSP)」の運営に参加しており、ベンチャー支援、インキュベーション施設運営では30年の歴史がある。そのKSPと一緒に展開しているのがKawasaki Deep Tech Acceleratorだ。2019年度の採択企業には信州大学発や静岡県立大学発のベンチャーもあり、市外からの参加も積極的に受け入れている点が特徴である。
 川崎駅に数年前にNEDOとの共同でテック系ベンチャーの発掘・成長支援のために作った起業家支援拠点が「Kawasaki-NEDO-Innovation-Center(K-NIC)」で、NEDOの支援メニューへの橋渡しなどのプログラムが動いている。

秦:次にバイオ・サイト・キャピタルと川崎との関係について福田さんからお話しいただきたい。


福田:弊社では、大学の技術シーズを基にしたベンチャー創業支援や、彩都(大阪府茨木市)や沖縄でインキュベーション施設運営を行っている。
 川崎市との関係では、2018年から新川崎の3つの施設の運営を任されている。具体的には、弊社、川崎市産業振興財団、Incufirm、三井物産フォーサイトの4社で、共同事業体を組んでOne Teamとして入居企業に対する基本的なインキュベーション活動と、「新川崎・創造のもり」をオープンイノベーションの拠点にすべく活動している。昨年度はイベント12回に約600名が参加いただき、マッチング78件・営業プロモーション117件などの実績を上げた。
 施設には、CADソフトや3Dプリンタ、小型工作機械まで備えた試作環境に加えて、熟練の技術指導員も常駐し、技術相談もかなり多く受けている。企業が開発の段階に入った時にセキュリティレベルの高い環境を用意できている点も特徴だ。同時に、川崎市は部品のサプライヤーなどサポートインダストリーが集積している街なので、試作品をつくる開発段階に入ったロボットや半導体デバイス関連のベンチャーにとっては良い環境だと思う。さらには、武蔵小杉や横浜にも近く人材調達の面でも優位だと思っている。実際に、入居企業から以前より優秀な人材を採用することに成功したという声もいただいている。

秦:川崎市は現状特にどういった形のスタートアップ支援に注力されているのか。


玉井:最初はハード=施設先行で、KSPにしても入居していただく方を中心とした支援を展開していた。ただ、それでは施設のテナント料を支払える規模の企業に限られてしまい0→1の支援は難しい。起業前の相談からビジネスモデルのブラッシュアップ、さらにはKSPと組んだアクセラレーション・プログラムといった0→1の支援に最近は力を入れている。

秦:アクセラレーション・プログラムについてより具体的に教えて頂きたい。


玉井:Kawasaki Deep Tech Acceleratorは開始して3年目だ。4月に公募が始まり、7月に10チーム程度を選抜している。応募者はライフサイエンスからIoTまで幅広く、その半数が大学の技術シーズの事業化を図る起業前のチームだ。翌年3月まで、1チームあたり1-2名のメンターについてもらい、伴走型の成長支援を施す。最終日にはデモデイを開催し、KSPの協力で投資家または事業会社とのマッチングを行う。既にJFEエンジニアリングに買収された事例もある。

秦:プログラム修了生は施設に入居することになるのか。


玉井:それが一番よいが、必須ではない。プログラムを通して川崎市の良さを知ってもらうきっかけになれば良いと考えている。また、プログラム修了後も継続して川崎市職員がフォローして支援している。鮫島弁護士に応援していただいている通称「川崎モデル」という知財マッチングの事例では、金融機関から川崎市役所に出向していた職員が、明治大学農学部発のミートエポック社に対して、魚を熟成させるという提案を行った。市内の公設市場で衛生面などの実証実験をしたり、販路となる飲食店をマッチングしたりと黒子になって取組みビジネスモデルを構築した「熟成魚」のベンチャーだ。

秦:米国のY-Combinatorは事業のフィージビリティ調査のための資金を数百万円提供している。研究開発型ベンチャー立ち上げに対する資金支援はあるのか。


玉井:川崎市の予算としてはないが、KSPが彼らの判断で事業検証のための小口出資をしており採択された企業はある。また、NEDOが起業前の研究者を対象として支援するメニューの獲得を目指す起業家の支援は行っている。

秦:福田さんは川崎市のスタートアップ支援についてどう見ておられるのか。


福田:基本的なソフト面の支援体制は整っており、時代に合わせてアクセラレーター機能も用意して進化している。加えて、最近力を入れているのが大企業との連携、所謂オープンイノベーションの成果を出すことだ。行政の運営するスタートアップ支援は早期の見返りを求めるところが多いが、懐深く長期的な視点でやっておられるのは素晴らしい。我々もこれを意気に感じているので、「川崎にくれば何かあるぞ」という気運醸成に尽力していく。

秦:鮫島さんは川崎市をどのようにご覧になっているか。


鮫島:長らく特許庁と知財戦略の啓蒙活動を行っているが、川崎市はそのプロジェクトにおいて日本で最も進んだ都市であると位置づけられている。大企業の技術を中小企業に卸して事業化する「川崎モデル」を確立し、次は研究開発型ベンチャーの事業化に注力するべく、本日説明のあったプログラムが生まれたと理解している。新川崎の周りには数多くの大企業だけでなく、ものづくりの中小企業やスタートアップ、そして大学などオープンイノベーションの担い手が集積しつつある。市役所が主導的に活動しているのも他にはない特徴だ。オープンイノベーションの仕組みやモデルを確立し全国に普及する、川崎市はそのためのパイロットプラントである。それくらいの使命感を持って臨んでいただきたい。

秦:最後に、川崎市の取組みに注目する起業家やサポーターに向けてメッセージをいただきたい。


玉井:研究開発型ベンチャーの支援において、知財をキーワードにマッチング強化を図っている。新しい事業の芽をどう育てていくか、悩んでいる他行政の声も聞くが一緒に解決していきたい。是非一度、「新川崎・創造のもり」へ足を運んでもらいたい。

福田:2003年以来、新川崎の施設からIPOした企業はまだなく、これを早く一つでも生み出したい。現在この施設への入居企業誘致を担当しているが、本当に優れた技術を持つ企業が揃いつつあると自負している。IPOサポーターの方々からの積極的な支援やコラボレーションを期待したい。

秦:川崎市は戦前から工業地帯としてものづくりや技術の中心的な役割を担う街で大企業も数多く立地する街だった。2000年以降は研究拠点としてエンジニアが多く働く街になった。そこにスタートアップも増えてきており所謂オープンイノベーションの成果を生み出す上で最適な街だと思う。新しい動きに期待したい。


※「THE INDEPENDENTS」2020年9月号 掲載
※冊子掲載時点での情報です

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