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令和時代のスタートアップ・エコシステム

2020-07-16 公開

国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)
理事長 石塚 博昭 氏(右)

1972年4月三菱化成工業(株)入社。2009年6月三菱化学(株)取締役常務執行役員。2011年4月三菱化学(株)代表取締役 取締役専務執行役員。2012年4月三菱化学(株)代表取締役 取締役社長。2017年4月三菱ケミカル(株)相談役。2018年4月国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)理事長。

インデペンデンツクラブ代表理事
秦 信行 氏(左)

早稲田大学政経学部卒業。同大学院修士課程修了(経済学修士)。野村総合研究所にて17年間証券アナリスト、インベストメントバンキング業務等に従事。1991年JAFCO に出向、審査部長、海外審査部長を歴任。1994年國學院大学に移り、現在同大学名誉教授。1999年から約2年間スタンフォード大学客員研究員。日本ベンチャー学会理事であり、日本ベンチャーキャピタル協会設立にも中心的に尽力。2019年7月よりインデペンデンツクラブ代表理事に就任。

令和時代のスタートアップ・エコシステム


<Vol.5>国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)


このコラムは、現在全国で数多く生まれているスタートアップ支援組織や支援団体を対象に、その組織や団体が生まれた背景や経緯、支援内容の特色、今後の方向性、日本のスタートアップ・エコシステムの現状、問題点や課題などを、組織・団体のトップへのインタビューを通じて紹介するものである。今回は国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の石塚博昭理事長にお願いした。

「新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)」のミッションは、非化石エネルギー等の開発を通じた地球環境問題の解決と産業技術力の強化にあり、職員数約1000名の日本最大級の公的研究開発マネジメント機関である。近年は新しい開発技術に基づく新産業創出、スタートアップ支援にも注力しており、特に研究開発型スタートアップの育成支援において、シードから事業化段階までシームレスな支援を行っている。

秦:まず初めにNEDOの設立経緯や組織ミッションなどについてお聞きしたい。


石塚理事長:1970年代の石油危機は日本経済に大きな混乱を招いた。その結果、新しいエネルギー政策を考える必要から、当時の通商産業省(現在の経済産業省)によって1980年に設立されたのが「特殊法人新エネルギー総合開発機構」である。その後1988年産業技術の競争力強化の指針の下に、産業技術研究開発業務も付け加えられ「新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)」に改称された。
 NEDOのミッションの第一はエネルギー・地球環境問題の解決、そして第二に日本の産業技術力の強化にある。加えて私が着任した2018年度からの第4期中長期目標期間(5年間)では、研究開発成果の社会実装や研究開発型スタートアップの育成などを明確に謳っている。今年度予算でもスタートアップ支援部隊であるイノベーション推進部に70億円を充当している。

秦:日本の研究開発体制はグローバルに見ると劣化しているのではないか。スイスIMDの国際競争力のランキングで、日本は1980年代後半トップだったが現在30位と低迷している。日本の研究開発の競争力についてどう思われているか。


石塚理事長:官民の研究開発投資額や特許申請件数などのデータを見ると、バブル期の1980年代後半に世界の頂点に立ち、1990年以降のバブル崩壊と共に低下している。正に太陽が西に沈んでいくかのごとくであった。ノーベル賞受賞者はアジアでダントツと言われるが、1980年代の研究成果が今となって評価された訳なのである。基礎研究の成果は長い時間を要するものであり、この基礎研究を削減することは将来その代償を支払うことになる。
 昨今、日本の研究開発力低下については、社会実装に繋がるか・儲かるかなど実利的な結果を求めすぎたのが大きな原因である。また、四半期決算など米国の短期的な会計開示制度を日本に導入したのが原因だと言う人もいる。では米国の研究開発力は低下したのだろうか。否、米国は依然として強く、中国も伸びてきている。
 個人的な見解としては、第一に研究開発費の全体額を増やすべきであると考える。明らかに米中に比較し見劣りする。又、何より基礎研究費を減らさないこと。第二に、基礎研究と応用研究をきちんと分けて考える必要がある。第三には、異なる研究分野の人材が若い頃から交流する仕組みを工夫すること。分野としてだけでなく、産学官を超えた交流が必要だ。

秦:人材交流が組織的にできない理由は何なのか。


石塚理事長:縄張り意識というか、専門へのこだわりが強すぎるのかもしれない。日本はエレクトロニクス分野の競争力が落ちてきているが、炭素繊維などマテリアル・サイエンス分野は依然世界のトップレベルにあり、中国や米国らも認めている。中国はマテリアル・インフォマティクスに力を入れているが、化学と情報学の両方の専門性が求められる分野だ。これが発達すると新規材料の開発時間が大幅に短縮されるため、早晩日本は中国に追い越される可能性もある。いま求められているのは、学際的な分野の人材なのだ。

秦:コロナ禍は日本経済に大きなショックを与えたが、石塚理事長はどう捉えているのか。


石塚理事長:日本は外圧によって大きな変革を行ってきた国である。近代の歴史を振り返ってみても、明治維新は黒船来航が大きな契機であった。第二次世界大戦後のGHQ然り。しかし、戦後の荒野からソニーやホンダなど、ものづくりで世界のトップとなる会社が生まれた。1980年代末、”産業の米”と言われた半導体分野で米国に勝利し、自動車なども含めてジャパン・アズ・ナンバーワンと言われるまでになった。コロナ禍は世界的な外圧であり、これを契機に「三度目」の大きな変革へ向かわなければならない。

秦:日本ベンチャー学会でも、「国難を救うのはベンチャー企業であるとの基本認識に立つべき」と緊急提言を出している。改めて、NEDOのスタートアップ支援について伺いたい。


石塚理事長:NEDOでは25年前からスタートアップ支援を始め、支援企業の中でIPOは24社、その時価総額合計額は約1兆円になっている。これまでの支援制度ではスタートアップの創業から事業化までを4段階に分け、それぞれの段階で適切な支援策=プログラムを実施してきている。2014~2019年度において、NEDO自身が93.4億円を研究開発型スタートアップの支援事業に投入した。そして、それが呼び水効果となり民間VC等から合計576億円の資金が集まっている。今後、コロナ禍でVCの投資判断も厳格化されていく事が予想されるが、NEDOとしては種としての資金提供は絶やさず、呼び水としての役割を担っていきたい。なかでも、今年度はPCA(Product-Commercialization Alliance:多連携事業化支援)を強化し、社会実装に向けた施策に資金やリソースを大きく投下していく。

秦:NEDOでは民間VCを認定し、シード期の研究開発型スタートアップへの資金提供を呼び込んでおられる。その認定VCの選定基準などについて伺いたい。


石塚理事長:今年度、認定VCを新たに24社採択した。その基準はスタートアップの伴走支援が出来るかどうか。つまり、ハンズオン支援能力とVCとしてのファンドレイズ力などを重視している。なお、認定VCより出資を受けた研究開発型スタートアップは、事業化に必要な経費の2/3を上限に最大7千万円の助成金を受けることができる。

秦:それにも関連するが、日本のVCをどのように評価されているか。


石塚理事長:ベンチャー投資には目利き力と懐の深さが必要だと思う。米国のキャピタリストは、夢を語る起業家に対して少しの疑いを感じつつも資金を出してくれる。厳密に審査しすぎると投資は難しくなってしまう。NEDOが支援しているスタートアップなら社会実装まで到達できるであろうといった安心感を与え、民間VCが投資しやすくすることが我々の役割だと思っている。従ってその責任は当然ながら重い。我々の目利きが間違うと世の中全体の方向性も間違ってしまう恐れがあるためだ。新しいイノベーションは専門家であれば目利きができる訳ではない。本当に市場性があるのかどうか、経済学、科学、その他さまざまな知識や見解が必要になる。NEDOに求められているのは、専門的な知識に加えてマーケットに対する造詣の深さ、予見性、将来の社会を見通す力。そうした能力を持って総合的に全体を俯瞰できる人材を集め育てていくことも、また我々の使命である。
 2017年度より、SSA(Startup Supporters Academy:高度専門支援人材育成プログラム)を開始した。起業家のアイデア実現に向けては、資金と同等に人材支援も必要である。SSAでは、座学に加えて、伴走支援プログラムの現場にアサインし、OJTでスタートアップ育成を習得してもらう形式を採っている。既に約100名の修了者を輩出し、NEDOのウェブサイトに氏名を公開しているので参照してほしい。
 また、全国13大学と起業家支援に係る相互協力の覚書を締結し、大学発の研究開発型スタートアップの発掘、支援にも取り組んでいる。
 このような様々な取り組みを通じて、NEDOは今後も引き続き研究開発型スタートアップの支援を強力に進めていきたい。

※「THE INDEPENDENTS」2020年7月号 掲載
※冊子掲載時点での情報です

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【2020年6月号】


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