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ベンチャーコミュニティを巡って第137回

2020-04-30 公開
國學院大学
名誉教授 秦 信行

インデペンデンツクラブ代表理事
秦 信行 氏

早稲田大学政経学部卒業。同大学院修士課程修了(経済学修士)。野村総合研究所にて17年間証券アナリスト、インベストメントバンキング業務等に従事。1991年JAFCO に出向、審査部長、海外審査部長を歴任。1994年國學院大学に移り、現在同大学名誉教授。1999年から約2年間スタンフォード大学客員研究員。日本ベンチャー学会理事であり、日本ベンチャーキャピタル協会設立にも中心的に尽力。2019年7月よりインデペンデンツクラブ代表理事に就任。

ベンチャーコミュニティを巡って第137回


モビリティ


 最近ある人から、ドラッカーは「日本はorganizeとimmobilityの国だ」と言ったという話を聞いた。ドラッカーは果たしてどんな意味でこの言葉を言ったのか、肯定的に言ったのか、それとも否定的に言ったのか?organize、つまり組織化が上手く、immobility、つまり人の移動が少なく組織自体が安定している、と肯定的に言いたかったのか、それとも組織力に頼り過ぎで個々人を上手く動かせていない、能力発揮を阻害している、と否定的に言いたかったのか?

 確かに戦後の高度成長期から1990年代頃までの安定成長期において日本の強さは組織力にあったと言えるだろう。加えてそれを支えていたのが安定的な雇用システムに守られることで力を発揮した働く人々だったと思われる。

 話しは変わるが、筆者の大学の同級生で某大手商社に勤めた男がいる。彼の話によると、1971年にその商社に入社した男性の同期生は120人、そのなかで定年までにその大手商社グループの外に転職した人はわずか2人、そのほかの人たちは全員定年までその大手商社グループにいたという。

 大企業といわれる会社の中ではその頃から転職の多い証券会社グループにいた筆者としてはその話を聞いて大変驚いた。ただ、多分その話は当時の多くの大企業では普通の話だったように思うし、現在50歳くらいから上の世代の方だと頷かれる話だと思う。当時の日本では一旦会社に就職したら定年まで勤めあげることが通常の在り方だと考えられていた。それは一旦入った会社を辞めて転職することが経済的にも大変不利になる状況でもあったからだともいえる。いずれにしても、当時の日本の産業界でのモビリティは、大企業に限られたことだったかもしれないが低かった。そして、当時それは組織の安定と強さに繋がり、日本経済を支えていたといえるように思う。

 しかし、時代は変わった。欧米に追い付き追い越せを目標に組織力を強化し高品質の製品・サービスを安価に大量に供給することに成功し一度は世界のトップランナーになった日本にとって、高成長時代のそうした強さの意義は薄れてしまった。日本にとっても時代は革新的、イノベイティブな製品・サービスを如何に生み出すかが最優先に問われる時代に変わってしまった。そこでは組織よりも個々人の尖った能力を生かす必要があり、残念ながらimmobilityはマイナスの要素になってしまった。人々のモビリティを高め、多様な経験を持つ人を増やすことがイノベイティブな社会の実現にはプラスだと思われる。

 日本でもようやくここ10年くらい転職者が増え、起業家も増え始めている。今後はさらにモビリティを高め、組織に属していた人が独立して組織が分かる起業家になり、起業家としてそれなりに成功した人が経営者人材として新しい創業企業の経営者になり、あるいはその人が起業の分かる投資家になって創業企業に資金提供する、といった形で、多様な経験知をもった個人が数多く存在する社会を創られることを期待したい。


※「THE INDEPENDENTS」2020年4月号 掲載
※冊子掲載時点での情報です

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