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知的財産判例に学ぶ企業活動(13)

2019-08-01 公開
弁護士法人 内田・鮫島法律事務所
弁護士/弁理士 高橋 正憲

弁護士法人 内田・鮫島法律事務所
弁護士/弁理士 高橋 正憲 氏

2004年北海道大学大学院工学研究科量子物理工学専攻修了後、(株)日立製作所入社、知的財産権本部配属。2007年弁理士試験合格。2012年北海道大学法科大学院修了。2013年司法試験合格。2015年1月より現職。

【弁護士法人 内田・鮫島法律事務所】
所在地:東京都港区虎ノ門2-10-1 虎ノ門ツインビルディング東館16階
TEL:03-5561-8550(代表)
構成人員:弁護士25名・スタッフ13名
取扱法律分野:知財・技術を中心とする法律事務(契約・訴訟)/破産申立、企業再生などの企業法務/瑕疵担保責任、製造物責任、会社法、労務など、製造業に生起する一般法律業務
http://www.uslf.jp/

知的財産判例に学ぶ企業活動(13)

守りの知財戦略である「先使用権」について

昭和61年10月3日判決(昭和61年(オ)第454号)[ウォーキングビーム式加熱炉事件]



 今回は、守りの知財戦略として重要な先使用権に関して、最高裁まで争われた「ウォーキングビーム式加熱炉」事件を紹介します。

1.事案

 特殊鋼、工業炉等の国内メーカーである原告Xは、F社からウォーキングビーム式加熱炉(A製品)の引き合いを受け、見積仕様書等を提出したところ受注には至りませんでしたが、その後、それに基づき開発したウォーキングビーム式加熱炉の受注を受け製造販売を行いました。
 一方、米国の会社であるY1は、炉の耐火室を通して、工作物を搬送する動桁型コンベアに関する本件特許発明について、特許権を有していました。
 そして、Y1の専用実施権者であるY2(被告)が、Xが出願公告中であるY1の権利を侵害している旨を警告し、Xの本件加熱炉の製造販売の停止を求めたところ、Xは先使用権があると主張し、Yらの差止請求権の不存在確認および先使用権の存在確認等を求め、それに対してYらは、反訴で本件加熱炉の製造販売の差止め、廃棄、損害賠償等を求めました。
 本件の争点は、①F社に見積仕様書等を提出したXの行為が、特許法79条における先使用権の成立要件である「事業の準備」にあたると言えるのか、②先使用権の成立が認められる場合、先使用権者が実施形式ないし実施態様を変更した構造のものにまで先使用権の効力が及ぶのか否かとなりました。
 第一審では、①については、Xの行為を、現実にその準備に着手したというべきであるとし、②については、発明の同一性をそこなわない範囲において実施してきた構造を変更した場合にも先使用権の効力が及ぶことを認めました。第二審は、論点については第一審と同じ考え方に立ち控訴を棄却しました。それに対してYらが上告したのが本件です。
 
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2.最高際裁の判断

 最高裁は、争点①について、「79条にいう発明の実施である『事業の準備』とは、特許出願にかかる発明の内容を知らないでこれと同じ内容の発明をした者又はこの者から知得した者が、その発明につき、いまだ事業の実施の段階には至らないものの、即時実施の意図を有しており、かつ、その即時実施の意図が客観的に認識される態様、程度において表明されていることを意味すると解するのが相当である。」とし、争点②については、「先使用権の効力は、特許出願の際に先使用権者が現に実施又は準備をしていた実施形式だけでなく、その実施形式に具現された発明と同一性を失わない範囲において変更した実施形式にも及ぶものと解するのが相当である。」として、上告を棄却しました。

3.本裁判例から学ぶこと

 先使用権制度は、特許権者と先使用権者の公平を図ることを趣旨として設けられています。特許出願より前に、いち早く、「事業の実施」または「事業の準備」をしていれば、特許権に対抗できる先使用権を得ることができます。すなわち、まだ製造販売をしていない段階であっても、本件のように「事業の準備」にあたるとされれば、先使用権は発生しますし、本件のように「同一性を失わない範囲」において実施形式を変更した場合であっても、先使用権が及ぶとされています。
 企業の知財戦略として、技術の秘匿化戦略を選択した場合(特許出願をすると必ず技術内容が公開されるために、あえて特許出願をせずに秘匿化をする場合)、先使用権の確保が肝要とされます。なぜならば、その秘匿したノウハウなどが他社によって独自開発され特許権として権利化された際には、他社から特許権侵害訴訟を提起されるリスクがあるからです。
 先使用権を主張するためには、証拠確保を含めた守りの知財管理が重要です。従来、先使用権の証拠確保にあたっては、公証制度が用いられることも多かったですが、近時ではタイムスタンプサービスもよく利用されています。2017年から特許庁の外郭団体である工業所有権情報・研修館において、無料のタイムスタンプ保管サービスが開始されています。 企業としては、先使用権の確保も念頭に置き、戦略的に情報管理を行うことをお勧め致します。


※「THE INDEPENDENTS」2019年7月号 - p30より
※7月号掲載時点での情報です

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