知財を活用した中小企業のブランド戦略 第15回
様々な表示の保護について(最終回)
1.今回のテーマ
今回は、社名や商品名以外の看板や内装といった、商標権で保護することが難しい表示態様の模倣に対する措置について取り上げたいと思います。
2.鳥貴族 v.s. 鳥二郎
焼鳥居酒屋チェーン「鳥二郎」の看板、内装、メニューなどが、同じく焼鳥居酒屋チェーン「鳥貴族」のそれらに酷似しているとして、鳥貴族が鳥二郎を訴えた事件は記憶に新しいのではないでしょうか。類似しているのが店名やサービス名ならば商標権に基づく差止等が可能ですが、「鳥貴族」と「鳥二郎」の店名は類似するとはいえず、商標権による保護を求めることは難しいでしょう。他にも、「かに将軍」のかにの看板が「かに道楽」のかにの看板と酷似しているとして問題となった事件もありました。これらの事件のように、商品名やサービス名ではなく、看板や内装等の表示形態が酷似している場合には、不正競争防止法(以下「不競法」といいます。)による差止や損害賠償を求めることができる場合があります。
3.不競法による保護
ライフサイクルの短い商品のブランド名については、その都度商標権を取得する費用対効果があまり望めないため、商標権を取得しない場合も多いと思います。また、アパレル関係では扱う商品形態が多数にのぼるため、その全てについて意匠権を取得するのは現実的ではありません。さらに、内装やメニューといった、商標権では保護しにくい性質の表示態様もあります。このような商品や表示を他社に真似されてしまった場合に、不競法の活用は有効な手段です。また、商標権や意匠権を取得し忘れてしまったが、その後に模倣業者が現れてしまったという場合にも、不競法による差止を求めることができる場合があります。このように、不競法は、意匠や商標といった産業財産権では保護が難しい部分の隙間を埋めるような法律です。
もっとも、他店の内装や看板などの表示態様が自分のお店と似ているからといって必ずしも保護されるわけではなく、その表示が保護に値するレベルに達していなければなりません。具体的には、その表示が①個性的特徴を有しており、②長期的独占的使用、宣伝広告、販売実績などの事情により、需要者の間において、その表示が特定の事業者の表示であるとの認識が浸透していることが必要とされており、実際に裁判所に認められるためのハードルは相当高いといえます。よって、商標権や意匠権で保護できる部分についてはしっかりと権利を取得しておくことが重要であることには変わりません。
4.まとめ
以上みてきたように、社名や商品名については商標権、工業デザインについては意匠権を取得して万全の保護を図っておくことが重要ですが、それ以外の表示について保護を図るためには、宣伝広告等を行って需要者にしっかりとその表示を浸透させていくことが重要になります。
5.最後に
これまで全15回にわたり、商標を中心としたブランド戦略について様々なテーマを取り上げてきましたが、今回で最終回となりました。中小企業の経営者の皆様のご参考となるようなテーマを選んできたつもりですが、少しでもお役に立てたのであれば光栄です。ブランド価値の維持は全ての業態の企業にとって重要なテーマですので、ぜひ今後の経営に活かしていただければと思います。
※「THE INDEPENDENTS」2016年4月号 - p20より
【知財を活用した中小企業のブランド戦略】第11回「権利活用(4)」
【知財を活用した中小企業のブランド戦略】第12回「不当表示」
【知財を活用した中小企業のブランド戦略】第13回「商標権の経済価値」
【知財を活用した中小企業のブランド戦略】第14回「リスティング広告」